sibakoのおさんぽ🐾

Open App

お題【Love you】

私には、好きな人がいる。高校2年生で一つ年上だけど、静かで優しい図書委員。入学して次の日、図書室に早速行った私は、彼を見て固まってしまった。いわゆる一目惚れだ。

毎日、図書室に通って話せるのは貸出の時だけ。そんな貴重な時間でさえ、緊張して口をぱくぱくしてしまう。一ヶ月通い詰めて少しなれたとはいえ、聞けたのはやっと名前だけ。

「山谷 心也」

それでも私には大きな進歩で、忘れないように忘れないようにとずっと頭の中で名前を繰り返していた。

それから特になになにも進展のないまま一ヶ月が過ぎてしまった。彼とは何とか会話できるようにはなったが、彼は本のことしか話さない。もちろんとても面白くて好きなのだけど……

それでも通い続けたある日。
珍しく彼が
「これ、家で読むの?」
と本の内容以外のことを聞いてきた。本のことには変わりないけれど、「この作家さんは......」「このシリーズは......」ばかりの彼にとってはとても珍しいことだった。

「えーと、はい、そのつもりです、けど......」
急すぎて少しあたふたしてしまった。

「そっか」
彼はそういうと、はい、と本を差し出した。
受け取ってもなお、私はキョトンとしていた。

キーン コーン カーン コーン

予冷に私はハッとして本をカバンに入れた。私はペコリと会釈して、急いで教室へ帰った。
(聞けばよかった......)
その日の午後は、彼のことが気になって気になって、授業どころではなかった。

家に帰ると早速借りた本を読むことにした。
本の題名は『こころ』
夏目漱石の代表作の一つだ。
本を開くと

はらり、、、

一枚の紙が落ちた。

『月が綺麗ですね』

綺麗な文字でそう綴ってあった。
私にはピンときた。

夏目漱石で、この文。
夏目漱石が訳した話のように、きっと彼は

『I Love You』

と伝えてくれたのだと。
私はすぐさまメモとペンを用意して

『死んでもいいわ』

と綴る。二葉亭四迷が訳したように。

明日返しに行こう。このメモを挟んで。



ーーーーーーーーー 10年後 ーーーーーーーーー

あの後、私たちは晴れて付き合うことになった。彼が私のメモを見つけて泣いたのは驚いたけれど。

そして今、私はウエディングドレスを着ている。
彼もかっこよくタキシード姿だ。
相変わらず優しく少しロマンチストな彼が今も大好きだ。

「これからもよろしくね」
「こちらこそ」
私と彼は微笑みあった。

2/23/2023, 2:22:27 PM