#9.5 君と出逢ってから、私は・・・
新しく入ってきた貴方の、初スピーチ。
『この人、絶対面白い!』
私のセンサーが激しく反応した瞬間だった。
ただし、その時まで手元の資料を見てたから一目惚れではない。
それからというもの。
姿を見かけては追いかけ話しかけ。
貴方は速足だから、
交わせる会話はいつも一言か二言。
それで充分楽しかった。恋情は無いとお互い分かっていたし、そういう環境じゃなかった。距離にして十メートル、ただの短いじゃれ合い。
一年後、私は異動になった。けど顔を合わせる機会があるって分かってたから、寂しくなかった。餞別にくれたチョコレートは美味しかった。センスあるんだなって思った。
さらに一年後、貴方がいなくなるなんて。でも夢を叶えられると聞いたら祝福するしかない。
心の中でビュービュー隙間風が吹いた。
もらった万年筆は宝物になった。
そのまた一年後、お酒を奢ってくれた。
聞いといて良かった連絡先。
酒のせいにして、ずっと貴方を見つめていた。ふわふわして幸せだった。
次の春。
飲みに行くかと誘われた。行ってみたら、一緒に飲む予定だった人には「二人でどうぞ」と遠慮されたと聞かされた。え、なんで。
飲んでるうちに気づいたら告白してしまった。
なるほど、遠慮される訳だ。
しかし付き合っている人がいるからと断られた。
酒のせいにして泣いた。
数ヶ月空いて、
向こうから連絡が来た。
なんだかよく分からないが期待しかない。
電話越しに告白してみたけど駄目だった。
好きなんだから期待させんなと泣いて怒ってやった。
人のいない公園で良かった。
さらに数ヶ月後。また誘われた。
まだ好きだったので、今度こそ振られて吹っ切る為にノコノコ行った。
…OKをもらえた。なんで。
天にも昇る気持ちだったが、すぐ突き落とされた。
優しいのに、やたら淡白でベタベタしようとすると嫌がられる。良い人なのに結婚していない訳が分かった気がする。
なんで私と付き合うことにしたの。
この人にとっての交際の意義が全く見えない。
…私が好きだと言ったからか。
とりあえず愛を求めるのは後回しにして、クリスマス頑張ろうと思った。
そしてその年のクリスマス。
欲しいものを聞かれたから恥を忍んでペアリングと答えた。私からは手作りのマフラーを渡した。
すごく喜ばれた。私史上最も喜ばれたかもしれない。その日から貴方からの愛を感じられるようになった。がんばって良かった。
…あれから十年。
色々あったけど順調に結婚して子供もいる。
いまだに貴方と一緒にいられることが奇跡みたいに感じている。
実感したくてベタベタしたがる私に対して、
貴方は今日も淡白と愛の供給を両立させている。
貴方と出逢ってから、私は。
生きることが良いことだと感じるようになった。
色んなことに折り合いが付かなくて
死んでないだけの生活を送っていた私は、
貴方と結婚できて、本当に安心したの。
私の帰る場所ができたんだって。
いつもありがとう。大好き。
◇◇◇
#9
毎日が変化の連続で、これが考えていた以上に大変で、だけど思い返すと愛おしさしかない。他に例えようがない、なんとも不思議な心地だよ。
もう君とは6年の付き合いになるんだね。
いや、顔を合わせる前も入れたら7年かな?
長かったような、あっという間だったような。
とにかく何時でも何処でも、
君のことばかりだったよ。
その間、君は一日として同じ日を過ごすことなく、
君らしく成長を重ねてきた。
喜ばしい反面、私には不慣れなことばかりで。
君との出逢いを後悔したことはないけれど、
前の生活を懐かしんでしまう夜もあったよ。
でも君を見ると、
可愛くて、可愛くて、仕方ないんだ。
何をしていても可愛い。どこから見ても可愛い。
抱きしめれば温かくて、柔らかくて、
すっぽりと収まってしまう小ささに、
ずっしりとしてきた重さに、
なんて愛おしいんだろうと、毎度感動してしまう。
君との生活には飽きるところがないよ。
次の6年で、君はどう成長していくんだろう?
楽しみにしているよ。ぜひ君にも楽しんで欲しい。
#8 大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると
浮かんできたのはどんなお話?
初夏の陽気を受け、草木生い茂る山の麓。
広がる草原に寝転び、流るる雲を友に。
束の間の休息と、紡ぐ物語-
「どうしようかしらねぇ、うーん、うーん…」
真っ黒なキャンパスを前に、うんうんと唸っているのは、神々に定められた序列の末端も末端、ようやく神格に迎え入れられたばかりの、分かりやすく言えば新人でした。
この新しき神に与えられたのは、創世の試練と権能の見定め。
できあがる創世記は、神にとって己を表す大事なもの。作り上げた世界を愛せるよう、材料は皆平等に用意されるので、発想や権能がものを言います。神なので制限時間はありませんが、しっくりくるアイデアが見つからず、新しき神は悩んでおりました。
人間で言えば、工房のような美術室のような。
そんな空間を気分転換も兼ねてウロウロし始めました。
「これが終わらないと仕事がもらえないのよね。でも、やっつけ仕事なんて絶対イヤ。きっと、これだ!って言うものが見つかるはず…」
さらなる天を見上げたり、自分の爪先を見下ろしたりしながら、孤独な存在に特徴的な誰に話しかけるでもない独り言をブツブツ呟きながら歩き回ります。
-ガッ!
お分かりですね。周囲への注意を怠った神は、絵の具入れを蹴飛ばしてしまいました。
「ああっ!やっちゃった!あー!しかもキャンパスにまで飛んだし!」
蹴飛ばされた衝撃で、色とりどりの絵の具は、大小ばらばらとキャンパスに飛び散っています。
それは、エネルギーに溢れた爆発のようにも見えました。
「あー…うん、まあ、これが私よね」
どうやら新しき神は無事に、
自身の権能と向き合い、
創世に本腰を入れることができそうです。
突如の衝撃から始まった創世は、
止まらぬ世界の広がりはそのままに、
少々の手心を加えることで行われた。
熱き太陽と廻る星の核が大地を温め、
吹き抜ける風によって更に匂い立つ。
木々や草花が歌い、動物たちは踊る。
それ即ち、創世の奇跡なり。
#7 「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。
その人のことを思い浮かべて、言葉を綴ってみて。
…ふむ。
伝えたかった、ということなので
『今は伝えることができない』と解釈して書くことにする。
交流というものは、学校などの特殊な環境でない限り、自発的な行動がなければ自然消滅していく。
そうして関係の途絶した知人が私にもいる。
連絡を取ろうとしなかったのは私。とは言え相手からも無かったので、その時期限りの友人と言えるだろう。
(字面では虚しく見えるが円満的に友人関係を解消する方が少数派のはずだ)
では始めから知り合う必要がなかったかと言うと、
そうでもない。
ある人は、心の傷を武器にするなと叱ってくれた。
ある人は、知らなかった本の世界を教えてくれた。
ある人は自身の信念を、そのルーツになった悲しい過去を話してくれた。
ある人は、綴る言葉にこだわりを持つ大切さを教えてくれた。
ある人は、優しい純粋な青春をくれた。
付き合いがあった時なんて、ほんの短い間だった。
だけど、今の私になる為には全部必要だった。
出会ってくれて、ありがとう。
#6 優しくしないで
「僕が悪いんだ、君のせいじゃない。それだけは-
出来るだけ傷付けまいと
言葉を選んでくれているのが分かる
だけど言葉よりも
その必死な態度こそが
関係の終わりを私に突き付けていた
私が幸せを感じていても、
あなたにとっては、そうではなかった?
何がいけなかったんだろう。
…ううん、もう手遅れなのね。
身まで焦がすような感情が
ため息を追いかけるように失せて
代わりに虚しさで満たされた
「いいのよ、
あなたばかりが悪いのではないわ。
私も悪かったのよ。」
見せかけだけの優しさなんて。
それなら、いっそ酷く振って欲しい。
その方がよっぽどってものよ。
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根が卑屈なので、強い人に憧れます。
#5 カラフル
colorful
色彩に富んだ,多彩な,華やかな,生彩のある
(weblio英和和英辞書より)
日本語とは、とても不思議な言語である。
漢字を崩し、つくられた平仮名、
漢字の一部を取った片仮名、
表意文字である漢字と、
多数の文字を使いこなす仕様になっている。
ここまででも多彩な表現ができるにも関わらず、
外国語や造語の取り入れを好み、
発言者の意図、その色合いをより複雑なものにしようとしている節がある。
また、流行に敏感な若年層で生まれる言葉は、
同じ日本語でありながら独自の世界が築かれ、彼ら彼女らに相応しい華やかさがある。
さらに、その地域でしか使われない言葉や表現として方言まであり、そこに根付いた文化を生彩のあるものにしているのである。
このように日本語は多様性-ここでは色彩と言いたい-に富んでおり、
カラフルな言語であると言えるだろう。