「先生、人間って誰しもが裏の顔を持っているんでしょうか?」
「あぁ?持ってんじゃねぇの?」
この、私の質問に対して雑な答えをした、榎先生は椅子に、めいいっぱい背もたれに体重をかけながら座っていた。
「ねぇ、深空くんは、どう思う?」
真面目にプリントを解いていた、深空くんに聞いてみる。
深空くんは、成績が悪くないのに、毎日補習に来ている。理由を聞いても「ここでしか、学べないことがある」としか答えてくれない、謎少年だ。
「ある人はあるけど..全員あるわけじゃ、ないんじゃな
い?」
「そうだよねぇ」
深空くんは、ペンを止める。
「どうしていきなり?」
深空くんは、首を傾げて聞いてきた。
「うーん..言いたくない」
私が答えると、深空くんは、困った顔をした。
「表がありゃ、裏もある。そんなの当然だろ?いい子が全員にいい子してる訳ないんだよ。俺だって校長の前だったら大人しくしてるぞ」
「榎さんは、ゴマすってるだけでしょ?」
深空くんは、辛辣に言う。
「あぁ?」
「深空くんに、裏ってあるの?」
私は、気になって聞いてみた。裏があったとしても答えてくれるわけないのに。
「どうなのかな..」
深空くんは、少し照れくさそうに笑った。
「.....」
榎さんは、眠そうにこっちを見てる。本当にその人は教師なのか、いつも疑問を抱く。
「たとえ、裏があってもよ、多分、そいつを嫌いにはなれねぇよ。表の部分と裏の部分。どっちも立派な本人だ。片方でも本人のこと、知っちまったんだ。だから、裏があっても、捨てることは出来ねーよ」
「.....あっそ」
「あ?なんだよ」
「私、もう帰るね」
「プリントは?終わったのか?」
「いや全然」
「なら帰るんじゃねぇ!」
「..っ結局帰りやがった..もういい、続きは、明日やるか....おい深空、もう帰るぞ」
「なぁ、榎さん。なんで彼女は、表と裏の話をしたんでしょうか?」
「知らねぇよ。そういうお年頃なんじゃねーの?。お前もあったろ?」
「......気づいたんですかね?」
「何が?」
「僕が前科持ちだってこと」
「....なわけねーだろ。」
例え、気づかれたとしても、あいつは、お前を軽蔑とかしねーよ。「今」表で、頑張ってんだから
ってそういう話じゃねぇか
「なぁ、ーーくん。君は自分の顔を見たことあるかい?」
友人は呟く。
「そりゃあ、当然、見たことあるさ」
僕は当然の返しをする。
「どうして自分の顔を知ったんだ?」
「それは、鏡を見れば一瞬さ」
「鏡がうつすのは、君の顔だけ」
「あたりまえだろ」
「そうさ。当たり前さ。でもね、自分の内面をうつすものは、この世に存在しないのさ。」
「君はさっきから何が言いたいんだい?」
「要するに、鏡のように、正確に自分をそのままうつすものがない限り、自分の内面も、自分では理解出来ていないのかもしれないな。」
「昔、僕が、中学生の時だね。僕をいじめる男の子がいたんだ。」
これは、雑談仲間の彼から聞いた話だ。
「教科書ビリビリにされたり、周りに変な噂話を吹き込んだり、今考えれば、結構なことやられてたなぁ〜って」
彼は、笑いながら話した。まるで、大切な思い出を語るようだった。
「でもね、なぜか分からないけど。彼が僕をいじめればいじめるほど、僕は人との関わり方、というやつを知っていったんだ」
「どうして僕をいじめるのかな?なぜいじめっこは、周りから人気なのかな?僕と彼は何が違うのかな? 人生で1番悩んだよ」
私は、「辛かったのね」と呟いた。かける言葉が見つからなかった。
しかし彼は、大声で笑った。
「全く辛くないさ。感謝もしてる。実は、そのいじめっこの彼とは、今も大親友なんだ。2人で遊ぶことだってたくさんある」
「僕は彼と仲良くするには、どうしたらいいか考えた。そして、行動した。そしたら仲良くなれた。周りの人間とどう関わっていけばいいのかも、理解することが出来た。」
「いじめから、始まった話だけど、僕にとって1番大切で、絶対に捨てたくない物なんだ。彼には感謝してるよ」
「そろそろ取り替えないとね」
そう言った君は、胸から心を取りだした。
「きついのか?」
「うん。なかなか」
「そうか..無理しない方がいいな」
「大丈夫だよ!心も取り替えたし!もう辛くない!」
君は、笑った。もう一度笑って欲しいな
こんな風に「心」を部品として交換できたら。君はまだ生きてたのかな
彼女と歩いていると、いきなり彼女の麦わら帽子が宙を浮いた。
風が強かった。デートの日としては、少し気分が下がったけど、彼女と一緒に歩くと、気分なんかすぐに元通りになった。
車に注意しないとね。と彼女は可愛い笑顔で言った。
僕は、彼女が大好きだ。
もっとデートしたいな
でももう叶わないのかな
彼女が被っていた麦わら帽子が宙を浮いた。
車に跳ねられ宙に浮いた