目の前でそんなに叫ばないでください。
血走った眼、溢れ出る鼻息、荒ぶる息づかい。
正直…嬉しいのですが、もう少しだけ場所を考えて欲しいです。
石橋を叩いて渡る貴方のことですから、十分な勝機を見定めての今回の件だと思われますが…残念ながら、私の気持ちは未だ五分五分です。それで言いますと、今回の件は少しマイナス査定の部類に入るかもしれません。
冷静な貴方が、何故このような暴挙に出てしまわれたのか…
–––– 愛は人を狂わせてしまう。
これは誠のようです。
先程から、大衆の期待と不安と好奇心が織り成す視線が痛いです。
ま、まさか…これも計算の内なのですか?
外圧に負けてしまいそうです。
今、私の中に一つの衝動が芽生えています。
–––– 叫びながら走り去る…と言うものです。
どうなりますかね?
どうなってしまうんでしょうかね?
俯いているのは恥じらいを隠すためではありませんよ?
取り残される貴方と大衆のお顔を想像して…ウズウズしてしまいニヤニヤが顔から零れ落ちないようにしているのてす。
そろそろ刻限みたいです。
付近の全ての耳が集音マイクと化しているのが分かります。
しかしながら、衝動は止められません。
貴方もそうだったのでしょう?
もう、抑えきれません。
げ、限界です。
試してみてもいいですか?
~ 愛を叫ぶ。~
ヒラヒラフラフラ飛ぶ様はきっと、タワーマンションから見た千鳥足の私。
あおむしのように日々這いつくばり、さなぎのように厳しさを耐えしのいだ末の千鳥足。
…つまりは、同志。
鼻歌が聞こえてきそうなほど、軽やかに歩が乱れておられる。
ちょっと深酒が過ぎましたね。
お気をつけて。
~モンシロチョウ 〜
そんなつもりじゃなかった。
耳にした…いや、心にブッ刺された刹那の相手の表情が、未だに頭から離れない。
喜怒哀楽が同時に引き起こされたような、ある意味制御不能な顔面。表情筋が不規則に痙攣、収縮、伸長を繰り返す。
『── しまった』
彼女のワナワナが、顔面から体幹に伝わり四肢末端まで転移する。
頬をつたう一涙に、自省の心が私に強烈なドロップキック。
足元を見ると、越えてはならない赤いラインは、疾うの昔に越えていて、28.0cmの半分ほど足がはみ出していた。
走り去る彼女の目から放たれたモノが、私の左手に着地した。
私は未だに、それを拭うことが出来ずにいる。
~ 忘れられない、いつまでも。 ~
親友と恋人を同時に失った。
一日が長くなった。
iPhoneを止めてAndroidに戻した。
SNSから足を洗った。
サブスクをSpotifyだけにした。
iQOSを止めて紙タバコに戻した。
カラコン等の造形美を止めた。
kawasakiの250ccを購入した。
Araiのヘルメットを父がくれた。
ウォーキング中に小さな花屋さんを見つけた。
母の日にカーネーションを送った。
積み本が減った。
株の面白さを知った。
久しぶりに祖母と祖父に会いに行った。
帰りしな、私が見えなくなるまで手を振ってくれてた。
食事が和食中心になった。
毎日、湯船につかるようにした。
一日が色濃くなった。
~ 1年前 ~
遠い日の記憶を辿る。
小中高と、お付き合いした人は数多いたが、所詮友達の延長線上。
焦がれる程の想いを抱いたのは、大学1年春の長身黒髪ロング。
結局、思いの丈を伝えられぬまま時だけが過ぎた。
人伝に、脈はあったと聞いた。
後の祭りだ。
関係性の延命に終始し、一歩が踏み出せなかった。
そんな感情に支配されてしまうくらい素敵な人だった。
後悔は自然分解出来ない。
折り合いなどつけようがない。
ずっと脳漿に鎮座し続ける。
初恋は不治の病。
~ 初恋の日 ~