普遍単位の使い分けという学習指導要領を盾に、無理矢理矢面に立たされている君にそっと伝えたい…
「キミのヨーロッパでの活躍は知ってるよ!だから元気を出して!デシリットル君」
——— そっと伝えたい ———
またやってしまった。
連日の飲み会で調子にのったせいで体重が3kg程増えてしまった。
後数ヶ月もすればアウターの無い季節に突入してしまい、体のラインが白日の下に晒されてしまう。
やばい。やばい。やばすぎる。
心配になってきた。
去年買ったお気に入りのブーツカットデニム…入るかな?
クローゼット内の箪笥に納められているブツを急いで引っ張り出し試着してみる。
はうおあ!?
し、閉まらん。マジか!
お腹…ボタン一つ分くらい生地が足りひん!
ももパンパンでボンレスやん!出荷されてまうやん!
嘘やろ、嘘や、こんなん嘘やって…
関西人でもないのに関西弁が出てしまうくらいの衝撃の展開。
前が開いたままのブーツカットデニムを穿いたまま、一階のリビングのソファーに腰掛け項垂れていると、カチャリと扉の開く音が聞こえた。
「お!いいね!ベルボトム」
「ぁ…ぉかえりぃ」
「どうした?なんでそんな死にそうなツラしてんの?」
「コレ…」
閉まらないブーツカットデニムのボタンを指差す。
「あらららら」
「どうしよう。春はもうすぐそこまで来てるのに…」
するとパパは急に真面目な顔つきになり、あたしの目を見据えてこう諭した。
「未来の記憶を改ざんしたいのならば、今やるべき事を後回しにせずに全力で取り組むしかない」と。
「記憶を…改ざん…」
「そう。未来の記憶をより良いモノにしたいのであれば、今動くしかないのよ、結局」
「確かに…」
「若しくは、どデカいバックルで茶を濁すかの二択!」
パパはそう言いきった。
後者の方がとても魅力的に感じたけれど、でもやっぱり未来は自分で創っていくものだし、変えていくものだと気づかされた。
いつもはおちゃらけてるクセに、たまに核心ついてくるから困るしホント助かる。
「よぉーし!今からランニング付き合ってよ!パパ」
冷蔵庫から取り出したビールを勢い良く喉に流し込む未来を奪われたパパは、少し悲しげで物憂げだった。
——— 未来の記憶 ———
「なんであたしの名前はカタカナでココロなの?」
家族団欒の時間に娘が唐突に切り出した。
「苗字との兼ね合いで、画数に窮したの?」
娘は続ける。
まあ、当たらずしも遠からずってところだが、安直に返すのも何だか癪だったので、少しばかり答えに捻りを加えた。
「心だけでも、ずっと踊ってて欲しいじゃん?」
「はい?」
「だから、世の中は楽しいことばかりじゃなくてさ、辛いことや悲しいことも沢山あるけどさ、そんな世知辛い世の中にあっても、楽しく心踊るような日々を過ごして欲しいっていう親心よ」
「答えになってなくない?あたしは何でカタカナでココロなの?って聞いてんの!」
「んじゃ〜さ、心って字が踊ってる姿を想像してみ?」
「字が…踊る…」
「そんでさ、次にココロって字が踊ってる姿を想像してみ?」
「…」
「機嫌よく踊ってたのはどっちの字よ?」
「…ココロ」
「だろ?ココロはEDM辺りの軽快で重厚なリズムにのっかってノリノリに踊ってたろ?」
「…うん。フェスでタオル振り回してた」
「心はどうだったよ?」
「盆踊りしてた…」
「な?」
「うん」
——— ココロ ———
月って奴は怠惰だよな。
太陽に終始依存してやがるクセになんだか偉そうだ。
二世議員やら親のスネかじりのボンボンってところか。
いいよな〜
雲間に隠れたり、光の当たり具合で「いとをかし」とか言われちゃうんだから…やってらんないよ。マジでさ。
まあ、確かに星の出自は下賎だよ。
塵やガスから生まれ出た存在だもの。
でも侮れないと思うんだ。
だって自ら光を放つ恒星よ?
己の力だけで生計を立てている個人事業主みたいなもん。
私と一緒。
等級による違いはあるけれど、それでも必死に生きてる。
偉いよ。
去年の7月7日に、私が短冊に書いたお願い届いてるといいな〜。
「確定申告がなくなりますように」ってやつ。
——— 星に願って ———
仕立ての良いスーツに身を纏った青年の背中に貼られたカイロ。
そのカイロにマジックで書かれたアンパンマンらしきが、先程から私を見つめている。
暖かさと温かさが同居する世界…というか背中。
ポンポンと肩を叩き教えてあげた方が君の為なのだろうけれど、これから君の背中を目にすることで生まれるであろうあたたかさのお裾分けを、私が奪ってしまうのは忍びない。
君の背中にはもうしばらくの間、この殺伐とした社会の湯たんぽとなってもらうことにするかな。
——— 君の背中 ———