白雪姫が毒林檎を口にして
深い眠りにつき王子様のキスで
目覚める話しは良く聞く話し。
でも私が知ってる話しは違う。
魔法の鏡なんてものは無い。
「君は世界一美しいよ」と言うのは
白雪姫にキスをするあの人。
いつからかあの人はこう言う。
「世界一美しい君を白雪姫が見てる。
僕らの未来のために白雪姫を
眠りにつかせよう」
私は毒林檎を作った。
あの人との未来を信じてたから。
愛していたから。
でもあの人は私の前から消えた。
そして聞こえてくる話しでは
あの人が白雪姫にキスをして
結ばれたと。
あの人は白雪姫が欲しくて欲しくて
私の心を犠牲にして手に入れた。
私を後に継がれるヴィランに変えた。
これがもう一つの物語。
こんな話しをしたところで
誰も信じてくれはしないだろう。
白いうさぎをずっと追いかけていた時
「紅茶を一杯いかがでしょう?」
シルクハットを被った貴方が声をかけてきた。
甘い香りがするテーブルに案内し
私に暖かい紅茶淹れてくれた。
その紅茶の味はとても美味しくて
その紅茶の香りはずっと忘れられない。
貴方はイカれてるわ。
相手にされない白いうさぎを追って
こんなボロボロの私に暖かい紅茶を
淹れてくれた。
「あたまがおかしい」と
指をさされて笑われる私をお茶会に
誘ってくれた。
もう白いうさぎなんてどうでもいいわ。
足音が近づき、ベルが鳴る。
「誰なの?」
「僕だよ」
「誰を愛してるの?」
「君を愛してるよ」
とてもシンプルな愛言葉。
でもいつもシンプルで都合の良い
ただの合言葉。
やっと鍵をかけられたの。
もうドアを開けることはない。
昔の夢はあの鳥ように翼を広げて
色々な所に飛んで旅をする事だった。
誰もがそれを優しく笑って
頷いてくれていた。
今は鳥籠の中に居るだけ。
鳥籠の扉が開いたとしても
翼を広げて飛んでいく勇気はもうない。
誰もがそれが当たり前だと言う。
この翼はただの羽。
真っ暗な部屋で眠っていたの
ある時光が差し差し込み
貴方の小さな手が私をそっと
包んでくれたわね。
それから毎日貴方は私に
可愛いワンピースを着せてくれて
優しく髪を撫でてくれた。
どこに行くにも私を連れて行ってくれて
色々な景色を見せてくれた。
眠るときは私を抱きしめてくれた。
貴方から貰った名前は最高のプレゼント。
貴方がローズ色の口紅をして、
綺麗な宝石をつけ、自分のお世話をする頃
私の眠る場所は星が見える窓の側
私の役目は終わってしまった。
明日になれば私はここを離れ
貴方に貰った名前では呼ばれなくなる。
明日さよならの前に私との日々を
思い出してくれたら、
最後に名前を呼んでくれないかしら。
その大きな手でそっと
暗い部屋に戻してくれたら嬉しいわ。