『バカみたい』
「バカみたい」
これは彼と出会った時、思わず口からこぼれ出た言葉だ。
常に自分より他人を優先したり、自分が傷つくのは構わず無茶ばかりしたり、周りの人だけは幸せになって欲しいなんて笑っていたりと、彼は信じられないほどのバカだった。 そんな人生で楽しいのかと尋ねた時も迷わず笑顔で頷いていて、彼のことは何年経っても理解出来ないだろうななんて思った。
私は常に他人優先に生きるなんて人生は御免だし、そもそも彼と出会うまでそんなこと考えもしなかった。
私はそんな彼が好きではなかったし、偽善者ぶるなと思っていた。
けれど、居場所のない私の傍に居てくれたり、何度も何度も懲りずに叱ってくれたり、しんどい時は何も聞かずに隣にいてくれたりする彼の優しさに惹かれていった。
彼に恥じない人間になろうと、タバコと酒を辞め、やんちゃ仲間とは距離を置き、勉強をした。
彼はそんな私を応援してくれて、励ましてくれて、やっと変われたのに。
「──くんが、亡くなりました」
本当にバカみたい。
他人を優先したり、私なんかの傍にいたりしただけではなく、家族からの暴力を誰にも相談せず耐え続けていたなんて。
しんどいのに無理をしたり、辛いのに隠したり、笑顔を絶やさなかったり、彼は本当にバカだ。
そして、彼と一緒に居たのに何も気づいてあげられなかった私も、自分のことばかりになっていた私も、彼が弱音を吐いたことがないと気が付かなかった私も、本当にバカみたいだ。
『二人ぼっち』
21時、二人で手を繋いで、公園の芝生に寝転がって、「二人だけの世界になれば良いのに」なんて叶うはずもない願い事を、この世界の何処かに存在する神とやらに願った。
暴力ばかりふる私の両親も、彼女に依存している彼女の母親も、クラスのいじめっ子も、見て見ぬふりをする先生も、みんなみんな居なくなれば良いのにと。
「ねえ、どうして神様はわたしたちの願いを叶えてくれないんだろう」
寂しそうな、苦しそうな声色でそう呟いた彼女の表情は暗くてよく見えなかったけれど、彼女の性格上、きっと笑っていただろう。
「分からない。もしかしたら神様なんて居ないのかもしれないね」
「そっか。やっぱり、やるしか、ないのかな」
「うん、でも、怖いや」
無意識に力が入っていたようで、彼女の手を握る力が強くなると、彼女も力強く握り返してくれた。
「怖いけど、もう自由になりたいよ」
彼女と出会ってから今までで一番苦しそうな声色で呟かれたその言葉に、酷く共感したのと同時に、もうこうするしかないという状況に胸が締め付けられた。
「そうだね。やろう」
私たちは起き上がって、近くの高層ビルへと歩みを進めると、何方ともなく笑いが起こった。
「せめて来世では幸せになれますように!」
二人で声を合わせ、大きな声でそう叫んで飛んだ瞬間、私たちは誰よりも自由だった。
『10年後の私から届いた手紙』
真っ白な封筒に入った"10年後の私から届いた手紙"には、何も書かれていなかった。
ただ真っ白い封筒に、真っ白い便箋が入っていただけだった。
真っ白いそれらには一切の汚れも、色もなく、まるで「お前には何も無い」とでも言っているみたいだった。
今私が10年前の自分に向けて手紙を書くとしたら。
中途半端な気持ちになる前に、死んでしまいなさいと伝えたい。死にたくないけど生きたくない。そんな気持ちになる前に、と。
何故未来の私は何も書かなかったのだろうか。何も書かないのであれば、そもそも手紙なんて出さなければ良いのに。
その時はどれだけ考えても答えは分からなかったけれど、今なら分かる。
未来はいくらでも変えられる、自由な世界なんだ。
未来は真っ白い封筒や便箋と同じで、好きに色を付けることが出来る。好きなことを書くことが出来る。好きな形に切ることが出来る。好きな写真を貼ることが出来る。
そう、行動さえすれば何だって出来るんだ。
今度は私が手紙を書くことになったんだ。また10年後、手紙を書くことになるかもしれないね。その時の私はどんなことを書くんだろう。考えてもよく分からないけど、まぁいいか。
今の私は真っ白なんだ。やりたいことも探し中だし、叶えたい夢も考え中。
だからさ、あなたが色を付けてよ。真っ白な私を、鮮やかに彩って。思い出を書き込んで。幸せを刻み込んで。
だってさ、未来はこんなにも真っ白なんだもの。
『あなたに届けたい』
あなたに伝えたいことが、届けたい想いが沢山あるの。
いつも、優しくしてくれてありがとう。
いつも、笑わせてくれてありがとう。
いつも、励ましてくれてありがとう。
いつも、愛をくれてありがとう。
あの日、素直になれなくてごめんなさい。
あの日、嘘ばかりついてごめんなさい。
あの日、あなたを傷つけてごめんなさい。
あの日、あなたを置いて逝ってごめんなさい。
嗚呼、どうかまだ消えないで。あと少し、あと少しだけ。この想いがあなたに届くまで。
『私だけ』
⚠閲覧注意⚠
( 病み etc )
「なんで私だけなんの才能もないんだろう」
学校の帰り道、私の愛する人はそう呟いた。
「なんで私だけ可愛くないんだろう」
暗い顔をしながら呟く私の愛する人。
「なんで私だけ報われないんだろう」
「なんで私だけ誰にも見てもらえないんだろう」
今にも泣き出しそうな声音で呟く私の愛する人。
「なんで私だけ誰にも愛してもらえないんだろう」
そう言って涙を流す私の愛する人。
「大丈夫だよ。あなたがどんなに才能がなくても、どんなに可愛くなくても、どんなに報われなくても、私だけはあなたを愛してるよ」
私の言葉に声をあげて涙を流す私の愛する人。
かわいいなぁ。もっともっと苦しませて、私だけしか見えないようにしてあげなくちゃ。
私に必要なのはあなただけ。
だから、あなたに必要なのも私だけでいいんだよ。
私だけがあなたの味方。
私だけ。私だけ。