『バカみたい』
「バカみたい」
これは彼と出会った時、思わず口からこぼれ出た言葉だ。
常に自分より他人を優先したり、自分が傷つくのは構わず無茶ばかりしたり、周りの人だけは幸せになって欲しいなんて笑っていたりと、彼は信じられないほどのバカだった。 そんな人生で楽しいのかと尋ねた時も迷わず笑顔で頷いていて、彼のことは何年経っても理解出来ないだろうななんて思った。
私は常に他人優先に生きるなんて人生は御免だし、そもそも彼と出会うまでそんなこと考えもしなかった。
私はそんな彼が好きではなかったし、偽善者ぶるなと思っていた。
けれど、居場所のない私の傍に居てくれたり、何度も何度も懲りずに叱ってくれたり、しんどい時は何も聞かずに隣にいてくれたりする彼の優しさに惹かれていった。
彼に恥じない人間になろうと、タバコと酒を辞め、やんちゃ仲間とは距離を置き、勉強をした。
彼はそんな私を応援してくれて、励ましてくれて、やっと変われたのに。
「──くんが、亡くなりました」
本当にバカみたい。
他人を優先したり、私なんかの傍にいたりしただけではなく、家族からの暴力を誰にも相談せず耐え続けていたなんて。
しんどいのに無理をしたり、辛いのに隠したり、笑顔を絶やさなかったり、彼は本当にバカだ。
そして、彼と一緒に居たのに何も気づいてあげられなかった私も、自分のことばかりになっていた私も、彼が弱音を吐いたことがないと気が付かなかった私も、本当にバカみたいだ。
3/22/2024, 10:45:14 AM