ひとりきり  台風が過ぎ去って です。
ひとりきり
キミを家に送って、今は家にひとりきり。
さっきまでキミと話して笑って、楽しかった時間が嘘みたいに、シーンと静まり返っている。
「何か見るか」
静けさに耐えられず、テレビをつけてみるけれど、ひとりきりだと、何を見ても面白くない。
「キミと付き合う前は、これが普通だったのにな」
ひとりきりでいることの淋しさ。キミがいなければ、知ることはなかったかもしれない。
「でもきっと、ひとりきりの淋しさを知ることも、キミへの想いを強くするのに必要な時間なのかもしれない」
そう考え、ひとりきりの時間を過ごすのだった。
台風が過ぎ去って
台風が過ぎ去って、気持ちの良い青空が広がっている。
「台風一過。だね」
少し、風の強さは残っているものの、昨日の雨風が嘘のように、太陽がキラキラと輝いている。
「嘘だったら、良かったのになぁ」
風に吹かれて飛んできた、ゴミや葉が庭のあちこちに散らばっている。
「掃除、しなきゃ」
庭の現状にため息を吐きながら、ゴミ拾いを始めたのだった。
フィルター  Red,Green,Blue です。
実際に試したわけじゃないので、間違っていたら、すみません。
フィルター
「お疲れさま」
仕事帰り、仲の良い同僚と飲みに来ていた。
「うま~い」
「1週間のストレスと疲れが吹き飛ぶな」
まずはお決まりのビールで喉を潤し、一息つく。
そのあと、いろんなお酒やおつまみを注文し、他愛もない話をだらだらとしていた。
「そういやおまえ、この前気になってる子がいる。って言ってたよな」
いい感じに酔ってきたころ、そんな話題を出される。
「ああ、言ったな」
「その子とはどうなってるんだよ」
ニヤニヤしながら聞かれたが
「…どうもしてないが」
残念ながら何もなく、そう答えると
「は?どうもしてない?」
俺の答えに怪訝な顔をする。そして
「なんだよ、気になるならもっと積極的にいけよ」
呆れた顔をしながらそう言うが
「俺だって、できるなら仲良くなれるようにしたいさ。でもその子、仕事以外で話しかけようとすると、上手く逃げるっていうか、避けられるっていうか…とにかく、話ができないんだ」
俺だって、言われなくてもそうしたい。
「なあ、もしかしてその子って、おまえと同じ部署の子?」
「ん、そうだけど。何で?」
少し、考える素振りを見せたあと
「前に、同じ部署の子が話してたことがあるんだ。違う部署に、彼氏に裏切られて、男性不信とまでは言わないが、男性が苦手な友だちがいるって。これって、もしかしたらその子のことじゃないか」
と話してくれる。
「え…」
「名前は知らないから確定ってわけじゃないけど」
違ってたら悪いな。と言われたけど
「いや、教えてくれてありがとう。俺、そういう人もいる。ってこと、理解してなかったわ」
ため息を吐くと
「じゃあ、その子のこと、諦めるのか?」
と聞かれ
「いや、教えてもらったことを考慮しながら、心のフィルターを外してもらえるように頑張るよ」
俺は微笑むのだった。
Red,Green,Blue
「ねえ、Red,Green,Blueを混ぜると、何色になるか知ってる?」
絵の具3つと筆を手に持ち、キミに聞かれる。
「え?何色だろ」
わからなかった俺が、素直に答えると
「聞くより見た方が早いし、納得できるよね」
ニコッと笑われ、絵の具と筆を渡される。
「確かにそうですね」
その通りだな。と、早速絵の具を…出せる場所がなかったので、自分の手のひらに少しずつ出し混ぜてみると…。
「…黒っぽい」
黒っぽい色になった。
「ああ。出した量によって少し変わるけど、だいたいそんな感じだね」
キミは俺の手を取ると、そっと手を拭く。
「ありがとうございます」
「私たちもさ」
「え?」
「私たちも一緒だと思うんだ。付き合う相手によって、何かしら影響を受ける。だから、相手は選ぶようにして」
俺が、付き合い始めた彼女。ちょっと。と思うところはあっても付き合っているけど、何か、心配なことがあるのかもしれない。
「はい。わかりました」
俺の返事にキミはホッとしたような顔をする。一緒にいるならキミのような人がいいんだろうな。と、俺は思ったのだった。
クラスでいつも、1人で過ごしている人がいる。
他のみんなが話していても気にすることなく、本を読んだり、お昼ごはんも1人で食べている。
「あいつって、静かだよなぁ」
「そうだなぁ」
とは言っても、嫌われているわけではない。
「でも、1人でいて、つまらなくないのかな」
僕は昔、友だちができなくて、焦っていたときがある。友だちができない、どうしよう。あの輪に入りたいけど、仲間になれなくて、泣いたこともあった。
今は気の合う友だちがいるから、毎日が楽しい。
でも、彼を見ていると、友だちがいなくてもつまらなそうではないし、むしろ、孤高の存在のようでカッコよく見える。
仲間になれなくて不安だった自分。今なら、みんなには友だちがいるのに自分にはいない。と焦る必要はないし、仲間になれなくても、自分らしく楽しめばいいんだ。と思えるようになったのでした。
「あ、強くなってきた」
就業後、会社を出るとき、邪魔になる程度の雨が降っていた。
「強くなるかもしれないし、念の為、置き傘を取ってくるか」
面倒くさかったけれど、傘を取りに戻って正解だった。
「良かった、取りに行って」
傘を広げると、さらに雨は強くなる。
「…通り雨かな」
でき始めた水溜りを避けながら駅へ歩いていると、コンビニの明かりに照らされた、雨と君が見える。
「あ…」
「傘、持ってないの?」
近くまで行くと、君が僕に気付いたのでそう言うと
「はい。小雨だったので油断しました。傘を買おうと思ったら品切れしてて…また小雨になるまで雨宿りさせてもらってます」
あはは。と笑う。
「良かったら、狭いけど入る?」
と誘ってみると
「いえ、申し訳ないですから…」
思った通り断られる。
「でも、いつ弱くなるかわからないし。ね。」
もう一度誘ってみると
「…ありがとうございます」
君はおずおずと傘に入ってくる。
「じゃ、行こうか」
「はい」
気になっている君と並んで歩く。改めて、傘を取りに戻って良かった。と思ったのだった。
誰もいない教室で、1人、掃除をする。
「昨日、掃除当番なのに、時間になっても来なかった。と報告が来ています。昨日掃除をしなかった代わりに、今日、1人で掃除してください」
昼休みに担任にそう言われ
「わかりました」
今に至るわけなんだけど。
「みんながいるときはわからないけど、教室って、結構広いんだな」
机と椅子を後ろに運び、前のスペースをほうきで掃く。サッサッサッという音が響き、1人でいる。という現実を、嫌と言うほど理解させられる。
「ま、急ぐ用事もないし、ゆっくりやるか」
と、のんびり掃除をしていると
「私も手伝うよ」
背後から声が聞こえた。
「あれ、どうしたの?」
振り向くと、そこにいたのは同じクラスの女子で。
「帰ったんじゃなかったの?」
掃除の手を止め、そう聞くと
「友だちと一緒に帰ってたよ。けど、その子から、今日の掃除はあなたが1人でやることになった。って聞いて…」
走って来てくれたのか、息を整えながらキミは答える。
「昨日、あなたが掃除しなかったのは、私のせいなのに…」
申し訳なさそうにされ
「キミのせいじゃないよ、気にしないで」
笑ってみせるけど
「ありがとう。そう言われても、私は気になっちゃう。だからね、手伝わせて」
キミは譲らない。
「わかった。じゃあ、悪いけどお願いするよ」
「うん」
昨日、掃除をしなかった理由。それは、廊下で倒れたキミを、保健室に運び、しばらく様子をみていたから。掃除をしなかったことは悪いことだけれど、倒れたキミを放っておく自分にならなくて良かった。と思ったのだった。