そっと包み込んで 歌 やさしい雨音 君の名前を呼んだ日 です
そっと包み込んで
何でも話せる仲の良い友達。
それ以上でもそれ以下でもない。
そう思っていたのに、僕の目の前で泣くキミを、抱きしめたい、そっと包み込んで守りたい。と思うのはどうしてだろう…。
自分の気持ちに戸惑いながらも、涙を流すキミを僕は抱きしめたのだった。
歌
キミと買い物をしていると、店内に流れている歌が聞こえる。
「あ、この曲。最近よく聞く曲だわ」
キミがそう言うので、知ってる曲かな?と、歌に耳を傾けると
「ああ、ホントだ。聞いたことある」
僕でも聞いたことがある曲だった。
「この曲、好きなの?」
何気なく聞いてみると、キミは左右に首を振る。
「そうなの?よく聞く曲なんでしょ?」
「うん、よく聞く曲だよ。いろんなとこでかかってるから。でも、自分では聞かない。…この曲、大好きな人との別れの曲だから」
キミは僕から目をそらし、悲しそうな顔をする。
「そっか」
僕はキミの手をそっと取ると、繋いだ手に力を込めたのだった。
やさしい雨音
「はぁ、疲れたな」
時計を見ると、23時を過ぎている。
「しかも…雨かよ」
会社の玄関から外を見れば、パラパラではあるが、雨が降っている。
「まあ、折りたたみがあるからいいけど、駅まで歩くのがなぁ」
面倒くさい。と思いながら、折りたたみ傘を開き、俺は駅へと歩き出した。
「こんな時間なのに、明るいしにぎやかだな」
残業でこんなに遅くなることはなく、知らなかったけれど、この時間でも外は昼間のようだ。
「雨、降ってるかわからないや」
傘に打ち付けているはずの雨。けれど、音は一切聞こえない。
「疲れてるときに、この騒がしさはキツイな」
俺は、駅までの道を裏道から行くことに決め、歩を進めた。すると
「あ、雨の音」
さっきまで聞こえなかった雨の音が聞こえてくる。
「サーサー、パラパラ…」
静かな道に、響く雨の音。
「…何か、癒される」
やさしい雨音を聞きながら、駅までの道を歩いたのだった。
君の名前を呼んだ日
「好きです、付き合ってください」
君と付き合ってしばらくの間、君を苗字で呼んでた。恥ずかしくて。けど、君の名前を呼んだ日。
胸がドキドキしたけど、今まで以上に君のことが大好き。って思えた。
僕の名前を呼んでもらえた日。胸が幸せでいっぱいになった。
大切な君の大切な名前。これからも大切に呼ぼうと思った。
Sunrise 昨日と違う私 です
Sunrise
朝を知らせるSunrise。
外が明るくなると、1日の始まりだ。と新鮮な気持ちになる。けれど、始まりは同じようでも、終わりは同じではない。楽しく過ごせるときもあれば、彼女とケンカして落ち込むこともある。同じような毎日でも、同じ日はない。
だからこそ、1日1日を大切にしようと思う。
昨日と違う私
生まれて初めて彼氏ができた。うれしいけれど、ステキな彼に、私が釣り合うのか自信がない。
だから、彼の隣を歩いても彼も私も恥ずかしくないように、キレイになれるように努力しよう。
昨日と違う私を彼に見てもらいたい。もっと好きになってもらいたい。
恋をするって、こんなにも心が揺れるものなんだね。鏡を見ながら、メイクの練習をするのだった。
「フゥー」
彼が吐き出したタバコの白い煙が、空に溶ける。
「煙、かからなかった?」
私を気遣ってくれる彼に
「大丈夫だよ」
と答えると、彼はホッとした表情になる。
「大切な人がそばにいるんだし、タバコ、やめられたらいいんだけど…」
そう言う彼に
「そうだね。健康を考えれば」
そう言うと、彼は苦笑いする。
「でもね、困ったことに、タバコを吸ってるあなたの仕草を見てるのが、私は好きなんだよね」
困ったね。と笑えば、彼はハハッと笑う。
「少しずつ。だけど、やめられるように頑張るね」
「うん」
良いことだけれど、いつか見れなくなる仕草。今のうちに堪能しておこう。と思うのだった。
遅れましたが、光輝け、暗闇で 手放す勇気 まだ知らない世界 まって どうしても… です
光輝け、暗闇で
「どうかしましたか?暗い顔、してますけど」
よく行くカフェでコーヒーを飲んでいると、仲良くなった店員さんに声をかけられる。
「暗い顔、してますか?」
確かに悩み事はあるけれど、暗い顔をしているとは、自分では思わなかった。
「ええ。それに、ため息吐いてましたから」
「え?」
思いもよらぬ言葉にハッとすると
「コーヒーを飲んでホッと一息。ではなく、ハァってしてましたからね」
苦笑いされ唖然とする。
「大丈夫ですか?良ければ話、聞きますよ」
店員さんの優しい声に促され
「…仕事のことで悩んでて」
僕は口を開いた。
「なるほど、そうなんですね」
一通り話し終えると、店員さんは顎に手を当て何やら考えているような素振りを見せる。そして、ニコッと笑い
「光輝け、暗闇で」
呪文のような言葉を発する。
「は?」
わけが分からずポカンとしていると
「どうしていいかわからず、暗闇の中にいる。って言ってましたよね。けど、そんな暗闇の中にいても、何とかしたい。という光は灯っている。光は暗闇の中ほど、光輝きます。もっともっと光を輝かせてください。きっと、暗闇は光に包まれ、見えなくなりますよ」
そう言って目を細める。
「そう…そうですね」
店員さんの言葉に、沈んでいた気持ちが軽くなる。
「ありがとうございます。やる気が出てきました。コーヒー、おかわりお願いします」
「はい。お待ちください」
店員さんの言葉に励まされ、頑張ろうと思うのだった。
手放す勇気
「いつまでも取っておいてはダメだ。…ダメなんだ」
俺は今、ある本を片手に苦悩していた。
「これがあると、つい頼ってしまうのは目に見えているんだから」
その本があると楽ではあるが、自分で考えることを放棄してしまう。
「今度は、自分の力でクリアするんだ」
その本は、とあるゲームの攻略本。昔、攻略本を見てクリアしたゲームが再販売されることになり、内容を忘れているし、もう一度遊んでみようと購入することにした。そして今度は、攻略本を見ずにクリアを目指そうと決めたんだ。
「手放す勇気を持たないと」
何度も何度もお世話になり、ボロボロになった本。何となく捨てられずにいた本を、俺はそっとゴミ箱に入れたのだった。
まだ知らない世界
「なあ、何がいいと思う?」
親友に
「相談がある」
と居酒屋に呼び出され、相談内容を聞いたのだけれど…。
「それ、何で俺に聞くんだ?」
俺はテーブルに肘をつき、ため息を漏らす。
「ん?オマエなら答えてくれそうかな。って思って」
「あのなぁ…」
彼女への誕生日プレゼント。何がいいか?なんて相談されても、彼女がいたことがない俺に聞くなんて、見当違いもいいとこで…。
「彼女いない歴=年齢の俺には、まだ知らない世界だぞ?聞く相手間違えんなよ」
そう言うと、親友は
「ごめん」
と苦笑したのだった。
まって
「まって、本当にまって。これって夢じゃないよね」
友達と一緒に出かけたショッピングモール。みんな行きたい店がバラバラなので、お昼まで別行動にしよう。ということになり、好きなお店を見ているとき、片思い中の彼を見つけたのだ。
「こ、こんにちは」
「あ、こんにちは。こんなとこで会うなんて偶然だね」
勇気を出して声をかけると、彼はニコッと笑ってくれる。
「1人?」
「うううん。友達と来てるんだけど、お昼まで別行動なの」
「そうなんだ。買い物楽しんでね」
そう言うと、軽く手を挙げ歩き出す。
「…夢みたい」
普段、なかなか話せない彼。今度からは、恥ずかしがらずに話しかけよう。と思うのだった。
どうしても…
「どうしても…。どうしても聞いてほしいことがある」
「…えっと…何?」
俺は今、好きな子を目の前に、想いを伝えようとしていた。
「急に呼び出してごめん。けど、これだけは言わせてください」
目の前にいる彼女は、少しイヤそうに目を伏せている。
「俺は、あなたが好きです」
「え?」
俺の告白に、彼女は伏せていた目をこちらに向ける。
「え?うそ?でも…」
戸惑う彼女に、俺はもう一度
「あの噂はうそで、俺はあなたが好きです」
素直な気持ちを告げる。
「どうして、俺に彼女がいる。なんて噂が広まったのかわからない。けど、あの噂はうそです。そのうそのせいで、本当に好きなあなたに誤解されるのはイヤなんです。あなたが俺を、何とも思っていなくても」
彼女に笑顔を向けると
「話してくれてありがとう。私、諦めなくていいんだ」
彼女はうれしそうに笑ってくれる。
「…それってもしかして」
「はい。私もあなたが好きです」
彼女に迷惑かも。そう思いながら伝えた言葉。言って良かったな。とホッとしたのだった。
目に見えない。けれど、いつもそばにいて、必要不可欠な存在。酸素。
僕たちが生きるために必要で、意識しなくても消えることなく支えてくれている。
僕は、キミにとっての酸素のような存在に、なりたい。