ささやき big love! どこへ行こう です
ささやき
「…うーん、先に休もうかな」
帰りが遅くなる。と言って仕事に行った彼を、日付が変わるギリギリまで待っていたけれど、このままではここで寝てしまう。と自覚したので寝ることにしたはずが…。
「ん?」
いつの間にか寝てしまっていたようで、何かの音で意識が浮上した。
「ねえ、起きて。風邪引くよ」
音の主はどうやら彼らしい。あ、帰って来たんだな。そう思うけれど、重い瞼は持ち上げられず、目を閉じたまま声を聞いていた。
「…起きそうにないか。じゃあ、ベッドに運ぶかな」そう言うと、私を軽々と抱き上げ、起こさないようになのか、ゆっくりと寝室まで歩き出す。
「そうっと、そうっと」
そして、私をベッドに降ろすと
「遅くまで待っててくれてありがと。愛してるよ」
私の髪を撫でながらささやき、頬にキスをすると、彼は寝室を後にしたのだった。
big love!
「ねえ、俺の話、つまんない?」
ファミレスで向かいの席に座り、フォークを持ったまま、ぼんやりしているキミに話しかける。
「え?何?」
ハッとした様子で、俯けていた視線を俺に移すキミに
「だーかーら、俺の話、つまんない?」
再度聞いてみると
「そんなことないよ」
慌てた様子で否定する。
「でも、心ここにあらず。って感じだよね」
「え?そんなこと、ないって」
俺の指摘が合っているからなのか、キミは気まずそうに視線をそらす。
「お互いにさ、仕事が忙しくて、しばらく会えなかったじゃん。だから俺、やっと会えるんだ。ってすげえうれしくて、今日が来るのを楽しみに待ってた。短い時間でも電話はできたから声は聞けた。けど、声だけじゃキミが足りなくて、すぐにでも会いたい気持ちをずっと我慢してた。それだけ俺は、キミのことが恋しくて仕方なかったのに、キミは違うの?」
そう問いかけると
「私だって、私だってすごくあなたに会いたかったよ。でも、忙しいのはわかってたし、会いたいなんてワガママ言って、迷惑かけたくなかったの。だから、辛いことがあっても我慢して…今だって、聞いてほしい話はあるけど楽しい話じゃないし、あなたまでイヤな気分にさせちゃったらって…」
今にも泣き出しそうな表情になる。
「あのさ」
俺はキミの隣に移動し
「キミが辛い思いしてたり、困ってることがあって、俺に話を聞いてほしい、会いたい。って思ってくれるなら、いつだって会いに行くよ。仕事も大切だけど、それ以上にキミが大切だからね」
「つっ…」
キミの髪をそっと撫でると、キミの頬を涙が濡らす。
「いつでもキミを、俺のbig love!で包むから、我慢しないで俺を頼って」
キミの涙を指で拭うと、泣きながらもキミは微笑んだのだった。
どこへ行こう
「おお、良い天気だな」
昨日までの雨が嘘のように、青空が広がる休日。
「家にいるのはもったいないか」
と、出かけることにしたのはいいけど、さて、どこへ行こう。
「買い物…って、天気関係ないな。うーんと、そうだなぁ…」
数分考え
「あはは、やっぱりここは親子連れでいっぱいか」
俺が来たのは動物園。仕事で忙しく疲れた身体を、大好きな動物に癒してもらおうと思ったのだ。
「かわいいなぁ」
柵に寄りかかり動物を眺めていると
「ママぁ、動物しゃんねんねしてるぅ」
小さな子がしゃがみ込み、動物を見てほほ笑んでいる姿が目に入る。
「もう少し小さな声でね。…すみません」
母親が俺に頭を下げるけど
「いえいえ」
小さな子にも癒される。
親になる。って大変なことの方が多いだろうけど…結婚もいいな。っとその前に相手を見つけなきゃ。と思った休日になったのでした。
街灯がなく、人通りの少ない夜道を、星明かりの下、キミと手を繋いで歩く。
「星の明かりだけだと、暗いね」
「そうだね。今みたいに、月が雲に隠されちゃったら、暗いよね」
しかも、月が雲に隠れていて、その姿は全く見えない。
「こんなに暗いと、私1人だったら怖くて歩けなかったよ」
「ああ、女性1人だと怖いよね」
確かにそうだよな。と思い、キミに同調すると
「あなたがいてくれて良かった」
キミは俺を見てふわっと笑う。
「あなたがいてくれると怖くないし、繋いだ手の温かさで、安心できるよ」
今すぐ抱きしめたい衝動を抑えるように、繋いだ手に力を込めたのだった。
「ねえねえ、これ知ってる?」
休み時間、隣の席の子に話しかけられる。
「ああ、影絵あそびのキツネだよね」
「うん、そう。知ってるんだね」
俺が知っていたことがうれしいのか、その子はにこにこ笑う。
「小さい頃にやったことあるよ、懐かしいな」
「懐かしいよね。でもこの前、小さい頃にした遊びの話になってこれを言ったら、知らないって人がいたんだよね」
「へえ、そうなんだ」
授業開始のチャイムが鳴り、会話はそこで終わったけれど、俺は影絵遊びをしていた頃を思い出していた。
「これと、これを合わせると何かに見えない?」
「うーん、どうかなぁ」
小さい頃よく遊んでいた女の子。確か、兄貴の友達が連れて来てた妹だった。兄貴たちは兄貴たちで遊んでたから、俺がその子の相手をしていたんだった。
「あの子、今はどうしてるんだろうな」
俺のこと、覚えているだろうか。なんとなくその子のことが気になり、家に帰ったら兄貴に聞いてみようと思うのだった。
授業中、ななめ前に座るキミの背中を見ていた。
振り返られたら困るくせに、こっちを見ないかな。って思いながら。
キミのことが好きだって自覚したのはいつだっただろう?
気づけば、キミのことばかりを見ていた。
そんなある日、キミに用事があり話しかけると、キミは顔をほんのり赤くし、俺から視線をそらしたのだ。
ただ、恥ずかしかっただけかもしれないし、人見知りなのかもしれない。けど、キミがそういう人だとは聞いたことはない。
もしかしたら…俺は物語の始まりを予感し、胸を高鳴らせたのだった。
「これ、追加で今日中に頼む」
「はい、わかりました」
課長に書類を渡される。
「さて、どの順で処理しようかな」
渡された書類の内容を確認し
「よし、やるか」
俺は腕まくりをすると、パソコンに向かった。
「もう終わったのか?」
「はい、確認をお願いします」
頼まれた仕事を終え、確認してもらうため課長のデスクに行くと
「うん、良くできてる。仕事は早いし、ミスもほぼない。キミに頼んで良かったよ、ありがとう」
書類を確認した課長に褒められる。
「ありがとうございます」
「けど、キミばかりに頼んでしまって、すまないね」
申し訳なさそうに課長に言われ
「いえ、もっとお役に立てるように頑張ります。私で良ければいつでもお声がけください」
笑顔を向けると
「そうか、悪いな。これからもこの調子で頑張ってくれ」
「はい」
ホッとした顔を見せる課長に、俺は一礼して自分のデスクに戻った。
課長には、役に立てるように頑張る。と言ったが、俺が頑張るのは役に立ちたいからではない。1日でも早く昇進したいから。
「昇進できたら、すぐにでも…」
付き合っている彼女にプロポーズしたい。
俺はその想いを叶えるため、静かな情熱を燃やすのだった。