握っていた手を、パッと開いてみる。
開いた手のひらには、何がある?
何もない?いや、見えない、感じないだけで、空気が乗っている。
空気だけじゃない。きっと見えない、感じないだけで、何かは乗っているのだろう。
「まるで、僕の手のひらは宇宙みたいだ」
宇宙みたいに、わからない何かを乗せている。
見えない、感じない、手のひらの宇宙に、ワクワクが止まらないのだった。
「良い天気だな」
よく晴れた休日。買い物をするため街を歩いていると
「わっ、帽子が」
風のいたずらにあう。
「あ、待って」
後方を振り返ると、飛ばされた帽子がコロコロと転がっていた。
「風、吹いてなかったのに」
慌てて追いかけると、視線の先、女性が拾ってくれているのが見えた。
「すみません。拾っていただきありがとうございます」
女性の前に立ち、お礼を言うと
「いえ。さっきの風、強かったですね」
女性はにっこり笑う。
「あの、何かお礼を…」
「お気遣いなく」
「でもそれじゃ、俺の気が…」
というやりとりをし、
「わかりました。行きましょうか」
女性と一緒にカフェに行けることになる。
「これも、風のいたずらかな」
風のいたずらで知り合えた女性。このあと、この女性が俺にとっての大切な人になるのは、また別のお話し。
廊下のイスに腰掛け、今か今かと待っていた。すると
「オギャーオギャー」
と、分娩室の中から声が聞こえる。
「おめでとうございます。女の子ですよ」
「ありがとうございます」
聞こえてきた会話に、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「中へどうぞ」
しばらくそのまま待っていると、分娩室から出てきた看護師に中へと促される。
「ありがとうございます」
逸る気持ちを抑え、静かに中に入ると
「あ、あなた」
産まれたばかりの赤ちゃんを胸に抱き、キミは嬉しそうに微笑む。
「女の子よ」
「…ああ」
元気そうな赤ちゃん。胸にこみ上げる気持ちのまま
「お疲れさま。ありがとう」
妻に感謝を伝えると、妻の瞳から透明な涙が流れる。
その涙に、妻も赤ちゃんも俺が守る。と強く思うのだった。
興味のない番組を見ながら
1人淋しく夕ご飯を食べる。
キミと一緒に食べているときは、あんなにも楽しく、美味しく感じられるのに、1人だと、何を食べていても、ただ空腹を満たすために食べている。としか思えない。
「1人だとつまんねえな」
かけっぱなしのテレビからは、笑い声が聞こえるけど、俺の心には、何も響かない。
「今すぐにでも、あなたのもとへ行きたい。1人では何も感じない冷え切った心も、あなたと一緒なら、春のように温かいぬくもりに包まれるから」
なんて言ったら、あなたはどう思うだろう。
そんなことを考えながら、箸を動かすのだった。
あの夢のつづきを まだ見ぬ景色 そっと です。
あの夢のつづきを
「好きです、付き合ってください」
大好きなキミに、僕は今、想いを告げている。
きっと顔は真っ赤だろうし、心臓もバクバクだ。でも、募っていく想いをなかったことにはしたくなくて、思い切って、キミに伝えていた。
「ありがとう…」
突然の告白に、キミもほんのり顔を赤くしながらも、返事をしようと口を開いてくれる。
「でも…」
「あ…」
また今日も、そこで目が覚める。
「あーあ。彼女、何て言うんだろうな」
現実では、告白する勇気は全然ない。
「あの夢のつづきを見れて、もし告白が成功しているなら、頑張って、こっちでも告白するのに」
いつもここで目が覚めてしまうことを残念に思いながら、返事をもらう前に目が覚めてしまうこと、告白を夢の結果に頼ろうとする自分にモヤモヤしながら、起き上がるのだった。
まだ見ぬ景色
「うーん、癒される」
僕がいるのは、僕のお気に入りの場所。
疲れたとき、悲しいとき、楽しいとき
暇さえあれば来てしまうほど、気に入っていて
「よく飽きないね」
と言われることもあった。
「もし僕に大切な人ができたら、ここに連れて来たい。
きっと、いつもとは違う風に見えるんだろうな」
2人で見る、まだ見ぬ景色を想像しながら、1人で見る景色を堪能したのだった。
そっと
「あーもう」
何度部長に提出しても
「やり直し」
突き返される書類を前に、俺はイライラしていた。
「何がダメだって言うんだよ」
自分では悪いところがわからず、イライラが募るばかり。
「少し休憩して来いよ」
同僚に肩を叩かれ、俺は静かに席を立った。
「…見てわかるくらい、イライラしてたのかな」
屋上の柵にもたれ、青い空を見上げると、少し、気持ちが落ち着いてきた。
「…焦ってたのかな」
何度提出しても返される書類。早く受け取ってもらいたくて、焦って上手くいかなかったのかもしれない。
「その通りだな」
独り言のつもりに、背後から返事が聞こえる。
「部長」
振り返ると、近づいて来ていたのは部長だった。
「ほら」
部長は、俺の前で立ち止まると缶コーヒーを差し出してくる。
「あ、ありがとうございます」
俺が缶コーヒーを開けると、部長も持っていた缶コーヒーを開けた。
「…落ち着いたか?」
「…はい」
「お前が仕事に真剣に取組んでいるのはわかってる。焦らず、落ち着いてやれば、必ず良い結果が出るから。期待してるぞ」
そう言って、部長はそっと背中を叩く。
「はい。頑張ります」
いつでも俺たちのことを気にかけてくれる部長のためにも、仕事を頑張ろうと思うのだった。