仕事帰りに、予約しておいたケーキを僕が持ち帰り、
キミが家で、料理を用意している。
「ただいま」
家に帰れば
「おかえりなさい」
キミと子どもたちが笑顔で迎え
「ほら、ケーキだよ」
ケーキを見せると
「早く食べよう」
子どもたちがはしゃぎだす。
「サンタさん、来てくれるかな」
食事をしながら
「いい子にしてるから、きっと来てくれるよ」
話が弾み笑顔が溢れる。
僕の理想のクリスマスの過ごし方。
その理想を手に入れるために、理想を叶えてくれる恋人を探そうと決意した、
イブの夜。
俺は1人、デスクに向かっていた。
「は〜あ。相手がいる人はいいよな」
俺にも恋人がいたなら、きっと、イルミネーションを見て、夜景のキレイなレストランで食事でもするのだろう。けれど、俺にはそういう相手はいない。
「…今ごろみんな、恋人とのデートを楽しんでるんだろうな」
部署のほとんどの奴らが定時で帰っている。
「けどさ、待ち合わせに間に合いそうにないからって、終わってない仕事を俺に押しつけなくてもいいだろ」
文句を言う前にさっさと帰られ、あとでトラブルになっても困るので仕方なくやっていた。
「来年こそは、押し付ける側になってやる」
静かな部署に響き渡るほどの大声で、誓うのだった。
「ハァ、ハァ」
俺は今、人混みを縫うように走っている。
「ヤバい。時間過ぎてる」
今日はクリスマスイヴ。デートの待ち合わせに間に合うように会社を出るはずが、遅れてしまい、待ち合わせ場所へ走っていた。
「遅れて、ごめん」
待ち合わせ場所に着くと、すでにキミが待っていた。
「そんなに遅れてないし、気にしなくて大丈夫だよ」
微笑んで許してくれたキミに、俺は一安心した。けれど、
「ありがとう。けど、もう一つ、謝らなきゃいけないことがあって…」
「ん?どうかしたの?」
「ごめん。キミへのプレゼント、用意できなくて」
「え?」
「本当にごめん。あとでになっちゃうけど、必ず用意するから」
キミへのプレゼント。何も用意できなかったことを謝ると
「プレゼントなら、もうもらってるよ」
キミは優しく微笑む。
「え、俺は何も…」
「仕事、忙しかったんでしょ」
「……」
「それを理由に、デートをキャンセルする人もいるだろうに、あなたはそれをしなかった。それどころか、待たせないように。って、走って来てくれた。私のことを大切に想ってくれてる。その気持ちをプレゼントしてもらったよ。ありがとう」
キミは俺の背中に腕を回すと、ギュッと抱きしめてくれたのだった。
「ただいま」
玄関を静かに開け中に入ると
「おかえりなさい。遅くまでお疲れさま」
キミが笑顔で迎えてくれる。
「こんな遅い時間まで、起きて待っててくれてありがとう」
時刻はもうすぐ0時。普段なら寝ている時間だ。
「ちょっとうたた寝しちゃったけどね。おかえりって言いたくて」
あはは。と笑うキミに心が温かくなる。
「疲れたでしょ。お風呂に入浴剤を入れてあるから、ゆっくり温まってきて」
「入浴剤?」
今まで入浴剤は入れたことがないのに?
「最近、帰って来る時間が遅いでしょ。だから、少しでも疲れが取れたら。と思って、ゆずの香りの入浴剤、入れてあるから」
「ありがとう」
キミの気遣いと優しさが嬉しくて、明日も仕事を頑張ろうと思えたのだった。
どこまでも広がる大空を見上げる。
「僕が見ているこの空は、見方は違えど、どこにいても繋がってるんだよな」
そう思うことで、今は離れているキミへの淋しさを紛らわせる。
「どこにいても、この大空と僕たちの想いは繋がってる。大丈夫」
離れていることで生まれる不安を、大空を見上げることで落ち着かせている、つもりだけれど…。
「キミが見ている空は、どんな風に見えるんだろう」
夜になったら、大空を彩る星たちがキミの目にどう映るか聞いてみよう。
淋しいから。という理由を隠し、キミに電話してみようと思った、