電車の発車ベルが鳴ると、キミとの時間が終わる。
「またね」
「うん、気を付けて」
それまで繋いでいた手が離れると、楽しい時間は終わりだよ。と告げるように、扉が閉まる。
「バイバイ」
手を振るキミに、僕も笑顔で振り返す。
けれど、何回やっても、離れる淋しさに慣れることはない。
「…頑張ろう」
今はまだ、キミと一緒に暮らす自信がない。でも、離れなくてすむように、明日からまた仕事に励もうと思った。
「あれ?いない」
家に帰ると、いつもいるキミが、今日はいない。
合鍵を渡して
「いつ来てもいいよ」
って言っただけで、来る約束もしてないし、来てほしいとも言ってない。
だから、来ていなくても当たり前なんだろうけれど
「何でいないんだろう」
と思えてしまうほど、寂しさを感じた。
「1人は…」
こんなにも寂しいとは思わなかった。
「…会いたいな」
キミがいない寂しさを抱えながら、目を閉じるのだった。
「はぁ~、寒っ」
手に息を吹きかけながら廊下を歩いていると
「お疲れ」
背後からポンと背中を叩かれる。
「お疲れ。そっちも帰るとこ?」
「そう」
叩いてきたのは、別部署の同期の女性で。
「駅まで一緒していい?」
手袋をしながらそう聞かれ
「もちろん、いいよ」
一緒に行くことになった。
「外に出ると、社内がいかに温かいかがわかるよね」
白い息を吐きながら、シャキシャキ歩くキミとは違い
「そうだね。寒いの嫌いだから、社内に住みたい。外出たくないよ」
背を丸めながら歩いていると
「そんなに寒いのはダメなの?」
ぽかんとした顔をされる。
「うん。できるなら在宅ワークにしてほしい。んで、外には一歩も出たくない」
そう答えると
「…そっかぁ」
キミは残念そうな顔をする。
「…何かあるの?」
キミの表情が気になって聞いてみると、キミは少し間を置き話し始めた。
「どの季節もそうだけど、冬にしかできないことってあるでしょ。イルミネーション見たり、クリスマスマーケットに行ったり、カップル限定のクリスマスメニューとか」
「ああ、あるね」
「カップル限定は2人で。だけど、イルミネーションもクリスマスマーケットも行きたいけど1人では行きたくなくて」
「…まあ、そうだよね」
「だからさ、一緒に行ってほしいんだよ」
「え?俺?」
上目遣いで頷かれ、どうしようかと悩んでいると
「頼める人が他にいなくて。だからさ…」
さらに頼み込まれ
「…わかった」
俺は行くことを決意する。
「いいの?行ってくれるの?」
嬉しそうに笑うキミに
「外に出る理由をもらったからね。今年の冬は一緒に楽しむことにするよ」
俺も微笑んだのだった。
「この動画のねこ、かわいいね」
「美味しそうだね。このお店、今度行ってみようよ」
「あのドラマ、見た?」
とりとめもない話を会うたびにする。けれどそれが、思いのほか楽しい時間になっていた。
今はただの友人の1人。
だけど、キミとの楽しい時間がもっと欲しいから、彼氏に立候補しよう。と思うのだった。
雪を待つ と 風邪 です。
雪を待つ
マフラーをして、コートを着ていても寒いと感じるクリスマスイヴの夜。キミと2人で、イルミネーションで彩られたクリスマスツリーを見に来ていた。
「さっきから、何を見ているの?」
ツリーを見に行こう。そう言ったのはキミなのに、ツリーではなく、夜空をずっと見上げている。
「天気予報によるとね、日付が変わる頃に、雪が降るかもしれないんだって。もし雪が降ったらホワイトクリスマスでしょ。そうなったらいいなと思って」
顔を赤くしながらも微笑むキミに
「寒いからもう帰ろうよ」
と言うこともできず、せめて少しでも寒くないように、雪を待つキミを背中から抱きしめたのだった。
風邪
「大丈夫?」
ベッドに横たわり、ゴホゴホと咳をするキミに声をかけると
「ん、大丈夫だよ」
キミは笑ってくれるけど、その笑みは弱々しい。
「できることなら、僕が代わってあげたいよ」
キミの手をそっと握ると
「あなたが辛そうにしていたら、私もそう思うよ」
キミは握り返してくれる。
「私たち、お互いを大切に想ってるんだね」
嬉しそうに笑うキミの
「早く良くなってね」
髪を優しく撫でたのだった。