「はぁ~、寒っ」
手に息を吹きかけながら廊下を歩いていると
「お疲れ」
背後からポンと背中を叩かれる。
「お疲れ。そっちも帰るとこ?」
「そう」
叩いてきたのは、別部署の同期の女性で。
「駅まで一緒していい?」
手袋をしながらそう聞かれ
「もちろん、いいよ」
一緒に行くことになった。
「外に出ると、社内がいかに温かいかがわかるよね」
白い息を吐きながら、シャキシャキ歩くキミとは違い
「そうだね。寒いの嫌いだから、社内に住みたい。外出たくないよ」
背を丸めながら歩いていると
「そんなに寒いのはダメなの?」
ぽかんとした顔をされる。
「うん。できるなら在宅ワークにしてほしい。んで、外には一歩も出たくない」
そう答えると
「…そっかぁ」
キミは残念そうな顔をする。
「…何かあるの?」
キミの表情が気になって聞いてみると、キミは少し間を置き話し始めた。
「どの季節もそうだけど、冬にしかできないことってあるでしょ。イルミネーション見たり、クリスマスマーケットに行ったり、カップル限定のクリスマスメニューとか」
「ああ、あるね」
「カップル限定は2人で。だけど、イルミネーションもクリスマスマーケットも行きたいけど1人では行きたくなくて」
「…まあ、そうだよね」
「だからさ、一緒に行ってほしいんだよ」
「え?俺?」
上目遣いで頷かれ、どうしようかと悩んでいると
「頼める人が他にいなくて。だからさ…」
さらに頼み込まれ
「…わかった」
俺は行くことを決意する。
「いいの?行ってくれるの?」
嬉しそうに笑うキミに
「外に出る理由をもらったからね。今年の冬は一緒に楽しむことにするよ」
俺も微笑んだのだった。
「この動画のねこ、かわいいね」
「美味しそうだね。このお店、今度行ってみようよ」
「あのドラマ、見た?」
とりとめもない話を会うたびにする。けれどそれが、思いのほか楽しい時間になっていた。
今はただの友人の1人。
だけど、キミとの楽しい時間がもっと欲しいから、彼氏に立候補しよう。と思うのだった。
雪を待つ と 風邪 です。
雪を待つ
マフラーをして、コートを着ていても寒いと感じるクリスマスイヴの夜。キミと2人で、イルミネーションで彩られたクリスマスツリーを見に来ていた。
「さっきから、何を見ているの?」
ツリーを見に行こう。そう言ったのはキミなのに、ツリーではなく、夜空をずっと見上げている。
「天気予報によるとね、日付が変わる頃に、雪が降るかもしれないんだって。もし雪が降ったらホワイトクリスマスでしょ。そうなったらいいなと思って」
顔を赤くしながらも微笑むキミに
「寒いからもう帰ろうよ」
と言うこともできず、せめて少しでも寒くないように、雪を待つキミを背中から抱きしめたのだった。
風邪
「大丈夫?」
ベッドに横たわり、ゴホゴホと咳をするキミに声をかけると
「ん、大丈夫だよ」
キミは笑ってくれるけど、その笑みは弱々しい。
「できることなら、僕が代わってあげたいよ」
キミの手をそっと握ると
「あなたが辛そうにしていたら、私もそう思うよ」
キミは握り返してくれる。
「私たち、お互いを大切に想ってるんだね」
嬉しそうに笑うキミの
「早く良くなってね」
髪を優しく撫でたのだった。
「うわ~、キレイ」
キミと見に来たテーマパークのイルミネーション。冬の寒さを忘れさせるくらい、アトラクションがキラキラと光り輝いている。
「うん、キレイだね」
僕の声が聞こえていないくらい、キミは微動だにせず、イルミネーションに見入っている。
「待たせてごめんね。次に行こうか」
堪能したのか、キミはイルミネーションから僕に視線を移し、満足そうに微笑む。
「うん、いいよ」
アトラクションを彩るイルミネーションを、次から次へと見て行くと
「ごめんね、私ばっかり楽しんで」
キミはそう言った。けど
「ううん。僕も楽しんでるから」
イルミネーションより、イルミネーションを見て、目を輝かせているキミを、僕はずっと見ていたのだった。
ねえ、どうしてキミはそんなに怒るの?
僕はキミが大好きだから、できるだけ大きな愛を注いで、キミを抱きしめているのに。
それなのにキミは、僕が抱きしめると、顔を歪め、ニャーと鳴きながら離せと抗議してくる。
あいつには、あんなにも甘い声で擦り寄っていくのに。
どうしたら僕はキミの1番になれるのかな。
キズだらけの腕を見ながら、あいつの膝でゴロゴロと喉を鳴らし、丸くなっているキミを想うのだった。