雪を待つ と 風邪 です。
雪を待つ
マフラーをして、コートを着ていても寒いと感じるクリスマスイヴの夜。キミと2人で、イルミネーションで彩られたクリスマスツリーを見に来ていた。
「さっきから、何を見ているの?」
ツリーを見に行こう。そう言ったのはキミなのに、ツリーではなく、夜空をずっと見上げている。
「天気予報によるとね、日付が変わる頃に、雪が降るかもしれないんだって。もし雪が降ったらホワイトクリスマスでしょ。そうなったらいいなと思って」
顔を赤くしながらも微笑むキミに
「寒いからもう帰ろうよ」
と言うこともできず、せめて少しでも寒くないように、雪を待つキミを背中から抱きしめたのだった。
風邪
「大丈夫?」
ベッドに横たわり、ゴホゴホと咳をするキミに声をかけると
「ん、大丈夫だよ」
キミは笑ってくれるけど、その笑みは弱々しい。
「できることなら、僕が代わってあげたいよ」
キミの手をそっと握ると
「あなたが辛そうにしていたら、私もそう思うよ」
キミは握り返してくれる。
「私たち、お互いを大切に想ってるんだね」
嬉しそうに笑うキミの
「早く良くなってね」
髪を優しく撫でたのだった。
「うわ~、キレイ」
キミと見に来たテーマパークのイルミネーション。冬の寒さを忘れさせるくらい、アトラクションがキラキラと光り輝いている。
「うん、キレイだね」
僕の声が聞こえていないくらい、キミは微動だにせず、イルミネーションに見入っている。
「待たせてごめんね。次に行こうか」
堪能したのか、キミはイルミネーションから僕に視線を移し、満足そうに微笑む。
「うん、いいよ」
アトラクションを彩るイルミネーションを、次から次へと見て行くと
「ごめんね、私ばっかり楽しんで」
キミはそう言った。けど
「ううん。僕も楽しんでるから」
イルミネーションより、イルミネーションを見て、目を輝かせているキミを、僕はずっと見ていたのだった。
ねえ、どうしてキミはそんなに怒るの?
僕はキミが大好きだから、できるだけ大きな愛を注いで、キミを抱きしめているのに。
それなのにキミは、僕が抱きしめると、顔を歪め、ニャーと鳴きながら離せと抗議してくる。
あいつには、あんなにも甘い声で擦り寄っていくのに。
どうしたら僕はキミの1番になれるのかな。
キズだらけの腕を見ながら、あいつの膝でゴロゴロと喉を鳴らし、丸くなっているキミを想うのだった。
「どこに行こうか」
キミと待ち合わせをして、デートに行く。
そう決めて、迎えたデートの日。デートすることは決めたけど、行く場所は決めてなかったので、今、デート当日に決めている。
「…どこでもいいよ」
「じゃあ、映画を見に行こうか」
「うん」
ニコッと笑ってキミは言うけど、何か言いたげに見える。
「じゃあ行こうか」
キミと付き合ってまだ1ヶ月。遠慮しないで、言いたいことは言って。そう言いたいけれど、キミに嫌われたくなくて、僕もキミに言いたいことは言えてない。
「手、つないでいい?」
嫌がられたら…そんなことを考え、それすらも言えない。でも、僕はこのままキミと一緒にいたいから、このままはダメだと思っている。
「今日は映画に行くけど、次はキミの行きたいとこ行こうね」
僕とキミ。2人がお互いに、心と心を開けたら、ずっと一緒にいられるかもな。
そんなことを思いながら、まずは最初の一歩。キミの手を握ろうと
「ねえ…」
キミに話しかけたのだった。
「おはようございます」
いつもより早めに出社すると、受付業務の女性が掃除をしていた。
「おはようございます。今日は早いんですね」
掃除の手を止め俺を見る女性。笑ってはいるが、やはりムリをしているように見える。
「ええ。気になることがあって、早めに来ちゃいました」
「そうなんですね。お疲れさまです」
微笑む女性をよく見ると、かすかに目が腫れているようだった。
「あの…」
そのことを聞こうかと口を開きかけると
「おはよう…ございます」
他の社員が出社して来る。
「おはようございます」
「おはよう……ございます」
気まずそうにする2人。その理由を知っている俺は、出社して来た男性の顔を見た。
「ああ、では…」
俺がいるのが気になるのか、男性は自分の部署へ向かおうと歩き出そうとする。
「ちょっと待って」
慌てて呼び止めた俺の声に反応し、男性は足を止めると振り返った。
「あの、何か?」
怪訝な顔をする男性に構わず、俺は口を開いた。
「ごめんね。俺、昨日の君たちのケンカ、聞いちゃったんだ」
そう言うと、2人とも顔がこわばる。
「誰かに言うことはないから安心して」
昨日の話しから、2人が恋人なのは秘密らしい。そのことをまず伝えると
「なら、何ですか?」
男性が不機嫌そうに、俺に突っかかってくる。
「実は俺、あなたのこと、いいな。って思ってたんだよね」
女性の方を向きニッコリ笑うと、女性は驚いた顔をする。
「ケンカの勢いで別れる。なんて言っちゃったんだろうけど、もしかしてチャンスかな。って思って、早く来たんだよね」
ハハッと笑うと、2人は呆然とする。
「けど、2人を見てたら、俺の入る隙はないな。ってわかったし」
「え?」
「どうしてですか?」
2人に詰め寄られ
「だって2人とも、ちょっと目が腫れてるよ」
俺の指摘に、2人は顔を背ける。
「きっと2人とも、相手を想って泣いたり、寝られなかったりしたんでしょ。それだけ想い合ってるんだから、早く仲直りしなよ。ま、仲直りしようと思って早く来たんだろうけど」
俺はそれだけ言うと、2人に背を向ける。
「あーあ」
2人にはああ言ったけど本当は…
「失恋か」
悲しい気持ちに蓋をし、何でもないフリをして部署に向かうのだった。