屋上に続く階段を静かに上がると、思った通り屋上のドアの前に両膝を立てて座り、俯いて泣いているキミがいた。
「やっぱりここにいたか」
そっとつぶやいた声に、キミは肩をピクリと震わせ顔を上げる。
「どうして…」
流れる涙をそのままに、キミは驚き固まっている。
「どうして。って、落ち込んでるんじゃないかと思って」
俺がそう言うと、キミは嗚咽を漏らす。
「頑張ったね」
キミを抱きしめようと、キミの横に座り腕を伸ばすと
「優しくしないで」
キミは拒絶するように俺の腕を掴まえ
「優しくされたら、あなたの優しさに頼り切ってしまいそうだから」
泣きながら言う。
「大丈夫、キミならそうはならないよ。だから、こんなときくらい優しくさせて」
笑顔を向けると、掴んでいた腕の力が緩む。
「ずっとそばにいるよ」
泣き止むまで、そっとキミを抱きしめたのだった。
夜空を彩るカラフルな花。
パチパチと音を立て、闇夜に大輪の花を咲かせる。
「キレイだね」
土手にレジャーシートを敷き、キミと一緒に花火を見上げる。
「うん、キレイだね」
キミに合わせてそう言ったけど、俺は花火よりも、花火を見上げるキミの横顔をずっと見つめていた。
生きる意味は?
と聞かれたところで、答えは出ない。
むしろ、答えがあるなら教えてほしい。
ただ、キミと出会って、穏やかで幸せな時間を過ごせているから、キミにもそう思ってもらえるように、生きていけたらいいなとは思う。
俺の首に、何かが触れる。それが、涙の雫だと気づいたのは、俺に抱きつくキミの腕の力が強まったのを感じたから。
「どうしたの?」
キミを優しく抱きしめ返し、そっと髪を撫でると
「…だってぇ…」
キミは微かに嗚咽を漏らす。そのまま落ち着くまで髪を撫で続けると
「…だってぇ、ホントに嬉しいの」
キミは俺の顔を見つめ笑顔を見せる。
「このままずっと一緒にいられたらいいな。って思ってたタイミングで指輪を渡されたらもう…」
そう言うと、止まったはずの雫がまた、キミの瞳からこぼれ落ちる。
「二人で幸せになろう」
俺はキミの頬に手を添え、優しく涙を拭ったのだった。
「もしも未来を見れるなら、見たいと思う?」
風呂上がり、キミと二人でビールを飲んでいたら、ほんのり顔を赤くしたキミがそんなことを言い出す。
「うーん、そうだなあ。別に見なくていいかなぁ」
グビッとビールを飲みちらりとキミを見ると、つまらなそうな顔をしている。
「何でそんな顔してるの?」
「だって、つまんないもん」
キミが唇を尖らせるので
「何がつまらないの?」
キミの唇を指で挟んでいたずらすると
「もう」
今度は頬をぷくっと膨らませる。
「だから、何がつまらないの?」
膨らんだ頬をつんつん突くと
「だって、見てみたいでしょ、未来」
頬を戻し、いじけた表情をする。
「見てみたいの?」
「そりゃ、見てみたいよ。子どもはいるのかなぁ。とか、家は建てたかなぁ。とか」
「ああ、なるほどね」
いじけたキミの髪を撫でると、キミの表情は和らぐ。
「ね、見てみたいでしょ」
キミにそう言われたけれど
「いや、別に」
俺の答えは変わらない。
「何で?」
不満そうに俺を見つめるキミに
「だってさ、未来なんて見なくても、キミと幸せに暮らしてる。ってわかりきってるからね」
俺は笑ってキスしたのだった。