宝物といえば、何を思い浮かべるのだろう。お金、恋人、昔拾った貝殻……など、人それぞれだと思う。だけど、私の宝物は私が今、生きているこの時間だ。どれだけ平和でも、明日生きているとは限らない。そして、生きたくても、生きられない人が数え切れないほどいる。
だから、私が生きている今は誰にも分けることも、あげることもできない大切な宝物だ。だから、私は生きていこうと思う。
今、息を引き取ったおばあちゃんの言い遺した言葉通りに。
今年はいろいろあった。嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、辛かったこと。だけど、それも大切な思い出。また、来年も大切な思い出を作りたいな。
今年もよろしくお願いします。
ふっと私の目の中に小さな黒猫が写りこんだ。その黒猫は子猫のようだ。この子猫のお母さんはどこにいるのだろうか、元の飼い主に捨てられたのだろうか。気になることはたくさんあったが、まずは子猫の飼い主を探すことにした。首輪がないから探すのは大変だろうけど、子猫も飼い主の所に帰りたいだろう。そう思うとますます子猫を放っておけなかった。
子猫を抱き上げようと手を伸ばすと、その手をさっと避けて塀の上に登った。子猫でもあんなに高い所に登れるんだと感心しつつ、危ないよ、と声をかけた。
すると、子猫は私の前を歩いて行き、少し歩いた所で止まった。もしかして、ついて来い、とでも言っているのだろうか。違うとしても、私はついていくことにした。
しばらく歩いていると、知っている場所についた。暁月神社だ。確か、お祓いをしていた神社だったと思う。私は一度、お参りをしただけだったが、男子達はよくここでかくれんぼをしていた。隠れる場所が多いからかくれんぼには最適らしい。だから、遊んでいる最中に誘拐しようとする人もいたけど、未遂で終わっていた気がする。その効果が神社のかは知らないけど。
「どうしましたか。」
突然後ろから声をかけられた。振り向くと、この神社の巫女さんらしき人が立っていた。
「えっと……。黒い子猫を追いかけて来たんですけど……あれ?」
いつの間にか子猫はいなくなっていた。そして、巫女さんがこう言った。
「もしかしたら、あなたを助けたかったのでしょうね。」
わけが分からず混乱していると、また巫女さんがいった。
「ここに祀られている神は猫なんです。なので、世で黒猫は不吉だと言われているのに不気味がらずに自分のことを心配してくれたあなたのことを助けたかったのだと思います。」
私の方を見て巫女さんににこりと笑った。純粋で表裏のない笑顔だった。
「さっきからどういうことですか。私を助けたいって。」
「それはね、あなたが呪われているからでしょう。」
「…………ぇ。」
声にならない声が出た。私が呪われている?そんな話すぐに信じられなかったけど、思い当たることはあった。
最近、体調が優れなかったり、体が重い。信じたくないけど、彼氏が浮気して、その上ひどい振られ方をしたのもそのせいなんだろうか。
「でも、安心してください。今すぐ呪いを解きますから。あっ、でも無料ですからお金のことは心配しないでくださいね。」
そう言って私の呪いを解いてくれた。
帰るとき、最後に気になったことを聞いてみた。
「どうして子猫が私のことを助けたかったって分かったのでしょうか?」
「あぁ、それはね」
巫女さんが私の後ろの方を見て、
「その猫がこの神社の神様で、私に教えてくれたからよ。」
と、教えてくれた。後ろを振り返ったが、誰もいなかった。
あれから数年後、私は婚約者ができた。私のことを大切にしてくれる優しくてかっこいい同い年の人が。私のことを振った元カレは、浮気した分の制裁が下され、私とよりを戻そうとしたけど、振られた時と同じようにして断った。
今、幸せなのは、あの黒い子猫のおかげだ。そのお礼の気持ちをこめて、暁月神社に週に一回お参りしている。黒猫だとか、白猫だろうが、みんな同じ生き物だ。黒猫だから不幸になるとは限らない。私はそれを胸を張って言える。
なぜなら、私が黒猫に幸せにしてもらったからだ。
「もうお別れか……」
「そうだね。」
親友のリイが悲しそうに呟いた。今日はリイがこの町から引っ越して行く日だ。少し前まで、一緒に笑いあって、泣いて、時には喧嘩した。大切な思い出が次から次へと溢れてくる。それと同時に涙がこみ上げてきたが、ぐっと飲みこんだ。
『間もなく、一番のりばに電車が参ります。ご注意ください。』
電車がくるアナウンスが聞こえてきた。そして、電車がホームに入ってきた。
「じゃあ、もう会えないけど、今まで親友でいてくれてありがとう。今日まで楽しかったよ」
「私も。引っ越しても元気にしてね。」
「……うん」
リイが電車に乗り込む。その顔は今にでも泣きそうな顔だった。
「……これからも。」
気づいたらそう呟いていた。リイが驚いた顔でこちらを見てきた。
「これからも、離れていても、もう二度と会えなくても私達は親友だよ!私達の絆はそう簡単に消えないから!」
今まで我慢していた悲しみが一気に爆発した。泣き叫ぶようにリイにこの想いを伝えると、リイも目に涙を浮かべて笑っていた。
「……ありがとう。」
その時、電車の発車する音がなった。電車のドアが閉まる直前。
「また、いつか会おうね。」
小さかったがはっきりとリイの声が聞こえてきた。電車が発車すると同時に私は電車の方を見て叫んでいた。
「いつか会いに行くからー!それまでも、それからも、私達は親友だよー!」
涙を流しながら、電車が見えなくなっても手を振り続けていた。
青空は、春を迎えていた。
ガシャンと大きな音が廊下から聞こえてきた。今は深夜12時だ。僕以外誰もいないはずなのに。誰がいるのか見に行きたい好奇心があったが、本能が警告を鳴らしている。
今すぐ逃げろと。
その警告は正しかったのかもしれない。なぜなら、
今、目の前にナイフを持った男が教室に入って来たからだ。この男は確か、連続殺人犯で指名手配されていた。そんな男が今、目の前にいる。
その男はナイフを振りかざすと僕に向かって猛スピードで近づいてきた。まるで、見つけた獲物を逃さないように。僕は怖くて動けなかった。刺されると思ったとき、
ー夢から覚めた。
起きたときは汗でパジャマがぐっしょり濡れていた。呼吸も荒かったし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。時計を見ると深夜2時を過ぎていた。
この夢は一生分の怖い夢を見たと思うくらいスリルがあり、怖かった。それから、僕は忘れ物があっても決して深夜の学校に取りに行かなくなった。