フグ田ナマガツオ

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8/8/2023, 11:48:11 AM

蝶よ花よと育てられたせいか、私のわがままは留まるところを知らない。
欲しいものは手に入れないと気が済まないし、今までそうして手に入らなかったものはない。
だから私は困っている。
学校一モテるこの子を落とすには、超えなきゃいけない壁がある。

7/18/2023, 9:36:25 AM

あれは遠い日の記憶だと思っていたけれど、全部が私の妄想だったとしても不思議はない。
それほどに私はそれを渇望していたし、そういう存在と出会うことを常に望んでいたように思う。

大分にある祖母の家は山奥に立地していて、車で行くには時間がかかる。
私は車酔いしやすいタイプなので、酔い止めの薬を飲んでいたが、うねりの激しい山道には歯が立たず、いつも最悪の気分で到着を待ち望んでいた。

祖母の家には私達3人家族と、父方の従兄弟たち4人家族で連れ立っていく。
大人たちが話している間、私はやることがない。
従兄弟2人組はゲームばかりしているし、遊ぶ相手もいないから、家のさらに上の方の山道に遊びに行くことが多かった。
今考えれば当時10歳の子供が1人で山奥に行くのを、全く気にもとめないのは無神経が過ぎると思うのだが、当時は特に気にすることもなかった。

車一台がギリギリ通れる道路を進んで、山の小路に入っていくと、そこに池がある。

6/30/2023, 1:48:39 PM

私は幼い頃から人と人を繋ぐ赤い糸が見えた。
「運命の赤い糸」という言葉は知っていたが、これがそうだとは思わなかった。
なぜなら恋人の間にひとつもないから。
だけど、最近ようやく分かった。
運命の人と巡り会うことなんて、ほとんどないことなのだと。

6/29/2023, 10:11:34 AM

夏に潜む切なさの正体が知りたくて。
世界から夏を奪った男はそう言ったらしい。
地軸が平行になった世界では、日本に夏は訪れない。
空気の循環が狂って、寒冷化しどの季節も少し寒い。
反抗するように私は水着で海に繰り出して、かき氷を食べる。
赤道付近の国や、極地に近い国が領土を奪うため戦争を始め、基本的に世界はめちゃくちゃになった。
敗色濃厚の中、自国の管理機能すら働かなくなって、国内は思うがまま暴徒が暴れているらしい。
彼がこんなことをしなくても、私はその切なさの正体が分かる気がしていた。
熱狂のさなかに身を置くと、それが終わってしまった後の
彼を失った私には分かる。
世界をこうしてしまおうとしていた私達はきっと熱狂の中にいて、冷めることが怖かったのだ。
馴染めない世の中に戻らなきゃいけないのが怖くて、全部めちゃくちゃになってしまえばいいと思ったんだ。

6/28/2023, 9:21:09 AM

宛先もなく旅に出て、当然のように資金が尽きた。
家の倉庫にあった中で、唯一金に替えられそうだった時計を持ってきたけれど、見るからに安そうだ。
振るとカラカラと音が鳴るし、二束三文のガラクタであることは疑いようがない。

「ここまでかなあ」

福岡からウネウネと北上して、今は東京だった。
旅立つ前に家も解約したから、戻る場所すらない。
時計を握って、公園に項垂れたまま、時間だけ流れた。

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