Cherry

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8/23/2024, 3:14:07 PM

「海へ行こう」
彼はデートに行くとき、よくそう言った。彼は海より山が好きなのに、海好きな私にいつも合わせてくれていた。
それがいつも嬉しかった。大好きな彼だった。

そんな彼は数年前、海で溺れていた男の子を助けようとして亡くなった。
あの日、海じゃなくて山に行こうと言っていれば。
何回も自分を責めた。でも、彼はもう帰ってこない。

今日は、彼が亡くなって5年目の日。彼が亡くなった海に、私は今年も訪れた。
砂浜の上に立って、そっと目を閉じる。そして最近身の回りであった楽しかったことや悲しかったことを、彼に心の中で伝える。
どうか天国で、笑って聞いてくれていますように。

8/12/2024, 1:10:10 PM

「君の奏でる音楽って、繊細で美しいよね」
ピアノを弾いているとき、彼はいつもそう言ってくれた。自分のピアノ歴は浅すぎて、自分が奏でる音はどれも汚いのに、彼はいつもそう言ってくれる。
それが嬉しくて、彼にもっと話しかけてもらいたくて、たくさん練習して、去年音大に入った。
でも、彼は今、美しいバイオリンを奏でる先輩に夢中だ。
私がピアノを弾くと、いつも駆け寄ってきてくれたのに、今はそんなこと一切ない。ずっと、先輩のそばで先輩の奏でるバイオリンを聴いている。
あなたのために、ピアノの練習をしたのに。
あなたにもっと褒めてもらいたくて、音大に入ったのに。
あなたにもっと好きになってもらいたかったから…。
練習してせっかく美しくなった私が奏でる音楽は、最近だんだん美しくなくなっている。

8/9/2024, 2:14:40 PM

恋愛なんか、
上手くいかなくたっていい
誰かを好きになることができてるってだけで素晴らしい
誰かを好きになるのはとても素敵なことだからね

明日産まれるお腹の子が将来恋愛に悩むことがあったら、必ずこの言葉を言ってあげよう

8/8/2024, 12:51:32 PM

美術館の出口付近に飾られていた1枚の絵。
2頭の蝶が、勿忘草の上で楽しそうに舞っている絵だ。
タイトルは『蝶よ花よ』。
小学生時代、私は絵画教室に通っていた。
その教室の先生は画家をやっていて、いつも様々な絵を私に見せてくれていた。
小学校卒業と同時に私は絵画教室を辞め、それからは毎年年賀状のやりとりをしていた。
でも今年の始めに先生が亡くなったことを知った。
そして今日、市内にある美術館で、先生が生前最後に描いた絵が飾られることになった。
その絵が、この『蝶よ花よ』だった。
先生は、花言葉にすごく詳しかった。だから覚えてる。勿忘草の花言葉は、「私を忘れないで」
大丈夫、ちゃんと覚えてますよ、先生のこと。
私は心の中でそうつぶやきながら、ずっとその絵を眺めていた。

8/7/2024, 3:11:04 PM

今日はモンブランを買って帰ることは最初から決まってた。
行きつけのケーキ屋でパティシエをやっている佐久間さんという人が、新しいモンブランが完成したから買いにきてほしいと昨日言ってきたのだ。そして感想を聞かせてほしいと。
私はもちろん引き受けた。そして仕事帰りにモンブランを買っていくことを約束し、さっき買いに行ってきた。
ただ普通に新しいモンブランを食べたかったっていうのもあるけど、それとは別に佐久間さんに会うきっかけがほしかったのが引き受けた1番大きな理由だ。
これを今から食べて、感想を明日言いにいく。美味しかったと笑顔で言ったら、どんな顔で喜んでくれるんだろう。
想像すると、明日が待ち遠しくなった。
私はお皿の上に置いたモンブランに、ゆっくりとフォークを沈めた。

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