別れ際にあなたは言った。
「また会ったら声かけてよ」
一応、「うん」とは言ったけど、私はもうあなたに会いたいとは思わない。
なんでこのタイミングでそんなこと言うの。
振ったのはあなたの方だし、私は正直まだ別れるのは嫌だって思ってる。だけど、あなたが私と別れたいって思ってるなら、私が嫌だって言う権利はない。
だから私は、今日から頑張ってあなたのことを嫌いになる。
でもまた会ってしまったら、せっかく嫌いになったのに、きっと私はまたあなたのことを好きになってしまう。
だからもう、会いたくない。
また会ったときは声かけてほしいって本当に思ってるなら、振らないでほしかった。
ずっと隣にいてほしかったんだから。
LINEをしてくるのは、いつも君からだった。
君からLINEが来ると、天に登るくらい嬉しくなった。
「元気にしてる?」
君からそういうLINEが来たのは1ヶ月前だ。前は1週間に1回は連絡してきてくれていたのに、もう1ヶ月も連絡が来ていない。
好きな人ができてしまったんだろうか。私の何かが嫌いになったんだろうか。
考えれば考えるほど不安は増していって、こんなに悩むならとりあえず自分からLINEをしてみようといつも頑張ってみるけど、「ごめんな」とか「好きな人できたわ」という言葉が返ってきそうで、怖くて自分から送れない。
なんで連絡をしてこなくなったのか、知りたいけど、知りたくない。
LINEが来る可能性なんてきっと低いのに、私は今日も君からのLINEを待ってしまっている。
だって、好きだから。また画面越しに、君を感じたいから。
どんな困難に見舞われても、追い続けたい目標がある。
私は、いつか立派な役者になりたい。
オーディションだって散々落ちてきた。
養成所では君みたいな子いらないといつも言われた。
でも、自分で掲げたこの目標は、いつまでも掲げていたい。目標をただの目標で終わらせたくない。
だから来月あるオーディションに向けて、私は今日も練習する。明日声が枯れたっていい。枯れた声を好きな人に変だと思われたっていい。
夢を叶えられるならなんでもする。
たとえ、崖から飛び降りろと言われても、役者になれるならできると思う。
昨夜から開けないLINEが1個だけある。
冒頭が「ごめん」で始まってることだけはっきりと分かるから、内容は先日私がした告白の返事に違いない。
開かなくたって分かる。私はふられた。
そりゃ、私なんか相手してくれないよ。
私なんかが隣にいたら、男子は誰だって恥ずかしいって思うよ。
でも、どれだけ可能性がなくても告白はしたかったんだ。
それくらい、このLINEの相手のことが好きだったから。私が君のこと大好きだと思っていたことを、知ってもらいたかったんだもん。
このLINE、いつになったら私は開けることができるんだろう。
もういっそのこと、スマホごと海に投げ捨ててしまおうか…。
「海へ行こう」
彼はデートに行くとき、よくそう言った。彼は海より山が好きなのに、海好きな私にいつも合わせてくれていた。
それがいつも嬉しかった。大好きな彼だった。
そんな彼は数年前、海で溺れていた男の子を助けようとして亡くなった。
あの日、海じゃなくて山に行こうと言っていれば。
何回も自分を責めた。でも、彼はもう帰ってこない。
今日は、彼が亡くなって5年目の日。彼が亡くなった海に、私は今年も訪れた。
砂浜の上に立って、そっと目を閉じる。そして最近身の回りであった楽しかったことや悲しかったことを、彼に心の中で伝える。
どうか天国で、笑って聞いてくれていますように。