一夜の夢

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12/19/2023, 6:41:50 AM

今年の冬は一緒に越そうね。
夏の終わりに僕らは約束した。
それから三月経って、森はしんと静かだ。
まだ起きているのは僕たちと、眠らない生き物だけ。
冬を越すための食糧も、暖かい寝床もちゃんと準備した。
そろそろだ。
次に君の顔を見るのは、雪が溶けた頃。
僕は自慢の尻尾を君の体に沿わせる。
君は嬉しそうに微笑んで、目を閉じた。

おやすみ。

まだ君の寝顔を見ていたい気持ちをこらえて、僕も目を閉じる。
君の寝息と枯れ葉の微かなさざめきだけが聞こえる。
冬を迎えるのが寂しくないのは初めてだった。

12/17/2023, 3:54:28 PM

とりとめもない話をしよう。
ゆるゆると眠気が指先まで染み渡るまで。
ストーブが生み出す暖かい空気で肺を満たして。
僕の声が意味を為さなくなるまで。
瞼が重くなる。
呼吸が遅くなる。
抱き合って眠れば、きっと夢の中でも手を繋いでいられる。
君が優しい眠りに落ちるまで、いつまでだって話し続けてあげるよ。
良い夢を、君に。

12/16/2023, 1:54:26 PM

風邪をひいた。
久しぶりに出た熱は思いの外苦しくて、慌てて飲んだロキソなんとかが効くことを祈るばかりだ。
冬だし、一人暮らしの家は寂しいし、誰も看病してはくれないし。
いい年してなんだか泣けてくる。
なんか風邪っぽいなと思った昨日の夜、レトルトのお粥でも買っておけばよかった。
買い溜めしてあるカップラーメンとエナジードリンクは、全く食べる気がしない。
なんせ風邪をひくなんて数年ぶりで、その予兆も対処の仕方も忘れてしまった。
きっと寝ていれば治るだろうと現実逃避に至る。
明日の仕事に響かなければいいな、なんて考える自分がみじめになる。
母さん。
この前、風邪ひかないでねって、言われたのにな。

12/15/2023, 1:33:00 PM

雪を待つ。
つけた足跡を消してくれるほどの吹雪を。
君の重さの分だけ沈む私の足跡は、誰にも知られずにかき消える。

さく、さく、と雪を踏み締める音だけがする。
ようやくこの身ひとつになれた。
財産も、蔵書も、食器も服にも、執着などない。
人生のスパイスは君だけで良いとわかったから。


「僕の歴史は二つに分けられる。あなたに出会う以前と、後に」

そう言った君との再会を思い出すと、いまだに自然と口角が上がる。
きっとこの先一生、あの日を忘れないだろう。

私は雪を待つ。
私のようには全てを捨てられないほどにしがらみに囚われた君を、このまま連れ去るために。

12/14/2023, 4:24:50 PM

イルミネーションに照らされる君の横顔に僕は見惚れた。
誕生日に僕がプレゼントしたチェックのマフラーに半分埋もれて、きらきら目を輝かせている。

「きれいだね!」
「うん、きれいだ」

はしゃぐ君はとてもきれいだ。
さっき売店で買い求めたホットワインが体をほてらせるから。
僕は思わず呟いた。

「好きだよ」

君がちょっとびっくりしたように僕を見上げる。
それから僕のいちばん好きな笑い方で笑った。

「わたしも大好き!」

繋いだ手から温もりが伝わってくる。
すべてが違って見える今年の冬は、きっと君のおかげだ。

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