そんな悠長なこと言ってないで、とっとと会いにきて。
(一年後)
お小遣いを全部つぎ込んで、下校途中のカフェも映画もぐっと我慢、クローゼットのお気に入りはとっくの昔にファストファッションと入れ替わった。おばあちゃんの形見だよって貰った指輪も入学祝いの時計もみんな親に内緒で売っちゃった。
それでも推しへの愛が足りてない。
もっともっと、全身全霊で応援しなきゃ。
だというのに。
フリマサイトとがらんどうの部屋をかわりばんこに見てはため息。もう売れるものがない。
“諦めないで! どんなものでも買い取りします!”
目に飛び込んできた宣伝文句。
どれどれ。
え、公園で拾ったどんぐりって、そんなの買う人……いるんだ。
一回使ったティーバッグ? 嘘でしょ。
“明日10時から1時間”って、お手伝いってこと?
みんな変なもの出品するんだな。でも、ちょっといいかも。
……
…………
「ねえねえ隣のクラスの転校生、すごいカッコいいんだけど!」
「見た見た! やばいよね」
きゃあきゃあと騒がしいクラスメイト。
「あれ、アヤちゃんあんま興味ない?」
「クールだねー」
「好きなひととかいないの?」
ほっといてよ、と思う。
ああでも、売るんじゃなかった。
「○○の日」なんて。
(初恋の日)
ツルゲーネフは『初恋』より『はつ恋』派。
ゲームアーツが手掛けたRPG『グランディア』。
97年発売なのでもうずいぶんと古い作品だけれど、いまでもプレイしたなかで一番好きなゲーム。
失われた古代文明、世界の果ての壁、新大陸、光翼人……冒険者になることを夢見る少年ジャスティンと一緒に、夢中になってダンジョンを巡った。
特に印象的だったのが魔法のエフェクトの美しさ。「炎、水、風、土」と「稲妻、吹雪、森林、爆裂」の8種類の魔法属性があって、新しい技を習得するたび、戦闘で発動するたび、胸を躍らせていた。
そしてこのゲームで唯一ヒロインのフィーナだけが使える魔法が「光翼魔法」。覚えるのも時間がかかるし消費ポイントもはんぱない、おいそれとは使えない技だった。
そのうちのひとつ。“終わる世界”。
すべてを灼熱の炎で焼き払う大技で、浮かび上がる炎の紋章と業火のエフェクトがとにかくきれいだった。
炎が世界を浄化するというイメージは普遍的なものなんだろうか。ソドムとゴモラを亡ぼした天の火(インドラの矢)しかり、ナウシカの火の七日間しかり。
(明日世界が終わるなら)
お姉ちゃんがしてる『シャドウハーツ2』を横で見るのが好きでした。
前の職場にて。電話を取り、はいかしこまりました~とメモをしたためようとしてはたと、ボールペンを忘れたことに気づいた。
心のなかで頭を下げて上司のペンスタンドから一本拝借。
と、
――なにこれ、チョー気持ちいい。
どこかの水泳選手がフラッシュバックするくらい、その書き心地に衝撃を受けた。
掠れ知らずのなめらかな書き味、しっかり濃いけどクリアな筆跡、なにより抜群の速乾性。
次の休日さっそく近くの大型文房具店に行った。
上司のお陰で(いや元はと言えばペンを忘れたのがきっかけだから自分のお陰か?)出逢えたペン。
ぺんてるのゲルインキボールペン、エナージェルユーロの0.35㎜。
キャップ式なのがちょっと手間だけど、だからこそ気持ちを込めて書きたいとき重宝する。
いまはこのアプリで満足してるけど、高校生の頃断念した日記帳に再挑戦してみようかな、なんて思ったり。
(君と出逢って)
ちなみに普段はエナージェルクレナの0.5㎜を愛用してます。ミントグリーンのストライプの軸がクラシカルで可愛い。
女子文具博行きたい……
うちの庭ではアゲハ蝶の羽音が聞こえる。
特に耳を澄まさなくても。
柑橘類の世話をしているといつもそうだ。枯れ葉を拾ったり、悪い虫が付いていないか目を凝らしたりしていると、ふいに耳もとで、パタパタ、と旗を振るような音が聞こえる。
空をあおぐと、頭のすぐ近くでふわふわ、ひらひら飛んでいるのが見つかる。急な動きに気をつけていれば、案外警戒心なく寄ってくるものだ。
あのそっと囁くような羽音を聞くと、なんだか少し、心が軽くなる。
(耳を澄ますと)
でも可愛いだけじゃないんですよね、アゲハ蝶。最近頭を悩ませるある問題。また書きます。