お小遣いを全部つぎ込んで、下校途中のカフェも映画もぐっと我慢、クローゼットのお気に入りはとっくの昔にファストファッションと入れ替わった。おばあちゃんの形見だよって貰った指輪も入学祝いの時計もみんな親に内緒で売っちゃった。
それでも推しへの愛が足りてない。
もっともっと、全身全霊で応援しなきゃ。
だというのに。
フリマサイトとがらんどうの部屋をかわりばんこに見てはため息。もう売れるものがない。
“諦めないで! どんなものでも買い取りします!”
目に飛び込んできた宣伝文句。
どれどれ。
え、公園で拾ったどんぐりって、そんなの買う人……いるんだ。
一回使ったティーバッグ? 嘘でしょ。
“明日10時から1時間”って、お手伝いってこと?
みんな変なもの出品するんだな。でも、ちょっといいかも。
……
…………
「ねえねえ隣のクラスの転校生、すごいカッコいいんだけど!」
「見た見た! やばいよね」
きゃあきゃあと騒がしいクラスメイト。
「あれ、アヤちゃんあんま興味ない?」
「クールだねー」
「好きなひととかいないの?」
ほっといてよ、と思う。
ああでも、売るんじゃなかった。
「○○の日」なんて。
(初恋の日)
ツルゲーネフは『初恋』より『はつ恋』派。
5/8/2024, 10:31:05 AM