めんどくさい女が勝手にやきもきした挙げ句男にふりまく虫除けスプレー。
アンブローズ・ビアス風にしてみました。
(優しくしないで)
カラフル。
私にとってはここがそう。
あなたはそう感じない?
彩度が低い。
シンプル。
寒色。
ふーん、そう。
でもね、
「お気に入り」をタップしてみて。
そこはきっと……
(カラフル)
“音速の貴公子”アイルトン・セナ。
3度のワールドチャンピオンに輝いた比類なきF1ドライバーの彼は、30年前の今日、34歳の若さでレース中に事故死した。
岡山の国際サーキットでパシフィックグランプリを走ってからわずか2週間後のことだった。
セナが泊まった温泉地湯郷の旅館には、いまも100点を超える写真が展示されている。ながい月日で色あせてしまっていたけれど、このたびデジタル復元によって当時の美しさを取り戻したそう。
旅館スタッフに囲まれ、左手をポケットに入れて悠々と歩く姿はカッコいいのひと言に尽きる。
残念ながら、F1マシンの速度を私が体感することはない。同じように、1万メートルの深海も、アポロ宇宙船の寒さも知ることはできない。辿り着けないそこは私にとって“楽園”と同義だ。
「生きるならば、完全な、そして強烈な人生を送りたい。僕はそういう人間だ。事故で死ぬなら、一瞬のうちに死にたい」
時速370キロとも言われるF1の最高速度。敬虔なカトリック教徒のセナはレース後、「(カーブを走っている時)神を見た」とコメントしたことがある。
ある意味、楽園を垣間見たということか。
(楽園)
いい風が吹いてきたら、それを逃す手はないと思うけど、どんな風に乗るかは見極めが必要。
偏西風や貿易風にうまく乗れたら、フライト時間が短縮できる。
春一番や青嵐に乗ったら、風雅な人と思われるかな?
波風や先輩風は、煙たがられるかもしれない。
(風に乗って)
母方の田舎ではみっともないことなんかを「ふうが悪い」と言ってました。
――おまたせ。
そう言ってお座敷に入ってきたあの子にたちまち目を奪われた。
ぼたん色の振袖に鮮やかな萌葱の帯を締め、つま先を揃えてしずしずと歩く姿は、いつもよりずっとお姉さんだ。
大ぶりの菊の花に鞠、組紐、蝶々。雪輪にもあでやかな御所車があしらわれた豪華な柄。晴れた日でもどこかうす暗い日本家屋で、そこだけパッと花が咲いたようだった。
――きれい!
息をはずませて褒めると、あの子はにっこり笑ってくるんと回った。
袖が風を含んでふわりと舞う。刺繍の金糸がきらきら光をまいて、思わずため息がこぼれた。
――ねえ、写真撮らせて。いいでしょ?
そうねだったとたん、あの子は眉を曇らせた。わたしの手を取り障子の外へ導く。
――だめだよ。このあたしはいまだけ。いまだけなんだから。忘れたの?
そして世界が閉ざされる。わたしはやっと、自分が約束を破ってしまったことに気づいた。
中庭の隅で見頃を過ぎたぼたんが雨に打たれていた。
(刹那)