「君の背中を追って」
私の憧れ、それは近所に住む5つ上のお兄ちゃん。
小さい時はどこへ行くにもついて行って、小学生の時はよく遊んでもらっていた。
私が中学生活を過ごすようになった頃、お兄ちゃんは高校3年生だった。もうその頃には会うことこそほとんどなかったが、会った時にはいつもと変わらない優しい笑顔で接してくれた。もうそれだけで十分幸せだった。中学2年生になって、最近見かけないなと思っていたらお兄ちゃんは県外の大学に進学したらしくて年の差をとても恨んだ。
連絡を取るすべを持たない私には、どうすることもできず、そこから全く会うことも無く、数年が経ってしまった。
ある日、私が大学から帰ると「お兄ちゃん結婚したんだって」と唐突に母から伝えられた。
ああ、ついにか。少し前にお兄ちゃんらしき人が綺麗な女の人と帰ってきているのを見たときから、覚悟はしていたが、胸がずきんと痛んだ。
ずっとずっと追い続け、いつか隣に並びたいと願った背中の隣には、いつの間にか知らない人が並んでいたのだった。
「好き、嫌い、」
人の気持ちってころころ変わるんだな。
日記帳をめくりながら思う。最初は続くかどうか分からないと思っていたが、思ったより継続できた。1冊終わったということは半年くらいは書いたことになる。
めちゃめちゃテンションが高い日もあれば異常なほど病んでいる日もあり、なかなか面白い。
自分や友達、家族が心底嫌いだと綴っているかと思えば次の日には人類って素晴らしい…!と悟りを開いていたりする。
振り返ると全てがちっぽけで可愛く見えるが、当時は生きるのに真剣だったのだと思うとなんだか不思議な気持ちだ。
私の周りの人間たちも、好いたり嫌ったりしながら生きているのだろう。そう思うと気持ちがすっと楽になる、気がした。
「糸」
あの人との糸は切れてもいいや
この人も別にいらないや
やけくそになって、人との縁を切って切って切りまくって見える世界を狭めていた私を引っ張ってくれたのは貴方だった。貴方のおかげで人間も捨てたもんじゃないなって改めて思うことが出来たの。
よく考えたらいらない糸なんてひとつもなくて、ゆっくり時間をかけて巻き直していった。
貴方に余計な心配かけないようにって頑張った。
でも貴方は、「俺が居なくても生きていける」なんてほざいて消えてしまった。
私が1番離したくなかった糸は、私の想いなど露知らず、ふわふわと風に乗って遠くへと運ばれて行った。
まだ切れてないよね?信じてもいいかな?
「I love」
この気持ちは、恋なのかな。
それとも推しへの愛と似たようなものだろうか。
ぐるぐる思考を巡らせながら彼の背中を見つめる。
こういうことを考えている時点でそれは恋だよ、とChatGPTが言っていた。
そうなのかもしれないとは思いつつ、まだ自覚したくなくてあえて結論は出さないようにしている。
口に出してしまうと現実になる気がして、友達にも言えていない。だからAIに相談しているのだけれど。
別に恋とかではない、と頭では考えているが、最近、確実に恋愛系の曲を聴くのが楽しくなってきているのを感じる。インスタのノートに流しまくりたい衝動と日々戦っている。
もう、誤魔化しが効かないかもしれない。
「夢見る少女のように」
幼かった私の将来の夢はプリキュアになることだった。
早起きは苦手だったけど、日曜日だけは誰よりも早くベッドから出て、夢中になってテレビを見ていた。
そんな私は今、夢も希望もなくごく普通のありふれたOLになっている。あのころの憧れは一体どこに行ったのだろうか。
スーツを着てパンプスを履き、浮かない顔の人間ばかりの中、駅を歩く。
階段を上がっていると、重そうな荷物を持ったおばあさんが見えた。思わず声をかけ、代わりに荷物を持って支えながら一緒に登る。
プリキュアの夢は諦めても、正義感はまだ健在だ。
すると、それを見ていたらしき小学生の男の子が『お姉さんかっこいいね!』と目をきらきらさせながら言っていた。私が驚いていると、おばあさんが男の子に向かって『あなたもお姉さんみたいなかっこいい大人になるんだよ』と微笑んだ。
その言葉を聞いて、はっとした。
世界を救えなくても、
大勢からの感謝を得られなくても、
ささやかながら人を助けることが私にもできる。
私も誰かのプリキュアになれるのだ。
おばあさんと男の子の背中を見送り、私も歩き出す。
夢も捨てたもんじゃないな、なんて思いながら歩みを進める彼女の影は、まるで少女のように軽やかだった。