行かないでと嘆いたとて、振り返るだけなのでしょう。
だって言っていたじゃない。
「我武者羅に進み続けることだけが良いのではない。疲れたら立ち止まれば良い。たまには振り返って逆戻りするのも大事だろう。そこには今しか見えない新たな道があるはずだ。また進めば良いとも、前を向け、上を見ろとも言わぬ。ただ、下を向いて涙を流すのも、怒りに震え物に当たるのも、ぼんやりと虚空を描くのも良いでは無いか、それらは全て自分の為になる。その後にどうするか決めれば良い。周りからしたら最悪の結末でも、貴方からすれば、きっと最高のハッピーエンドになるはずだ。」なんて、ずるい人ね。貴方がそれを私の目を見ていうせいで、私は諦められないのよ。
始まりはいつも私からだった。あなたの目から出た糸の先。私の後ろを見渡す目。一体誰を見ているの?貴方といつも一緒に居たいのに、あなたと一緒に居ると寂しいの。
ひとりぼっちみたいよ。
あなたと目はあってるのに、あなたの視線の先は私じゃない。いつからだったっけ。いつからこうなっちゃったんだっけ。あぁ。そうか、5月。私の姉が亡くなった日。
そうね、そっか、そうだよね。変わったのは貴方じゃなくて私。あなたは私を愛してくれていたのにね。ごめん。
貴方のことを愛しているのに、一緒に居たいのに、今では貴方と一緒に居ると、一緒に痛い。
さよなら愛おしい人。さようなら。愛しているわ。愛しているけれど駄目なの。
もう私は貴方を愛していない。お願い。戻れないのよ。だから、私を見ないで。
やわらかな光に包まれて、時間の標本を作る。世界で貴方たった1人だけが花に包まれているかのような、そんな感覚。
何処か無機を感じる表情に紅を引いて、真っ白の菊を敷き詰めて、扉を締める。
もう会うことは出来ない。顔は見れない。さよなら、愛する人よ。出来ればもう一度だって逢いたくないよ。
鋭い眼差しに目を貫かれると怖くなる。声が出なくなる。違う。違うんだよ。そんな事じゃあない。そんなこと言わないから怒らないで。
死にたい訳じゃあないよ。ただ、生きたい訳でもない。皆が大切にする家族も、これからの決まってる未来も、全部僕からすれば簡単に捨てられるもので、同じく。死ぬことも簡単に出来る。ただ、大切にすべきものが見当たらない。生きることは経験を積むと言うよりも苦しみを積むに等しい。それを詰んだとして、一体その奥には何がある。
家族も恋人も、愛していない訳では無い。ただ、生きる理由が見当たらないだけだ。
死にたい訳じゃないから、だからどうか、怒らないで。
カーテンの上がった先では踊る貴方。
舞台の上のあなたは何時もよりも、酷く美しく見える。
けれど、今まで生きてきた中で、何か一つでも人に褒められたことがあるとすれば、それは貴方が凄い訳じゃない。周りが出来ていなさすぎただけだ。
舞台で踊る人が美しく見えるのは、映画が美しく映えるのは、花火が鮮やかに散るのは、星が夜空を照らすのは、1輪の大きな花が美しく見えるのは、周りが綺麗に見えるのは、それを作るまでの努力のおかげじゃない。周りが暗くて、その人だけが明るいから美しく見えているだけ。隣に光り輝く宝石を置けば皆宝石の方を見る。
それでも、今だけは、貴方が1番美しいと、認めたい。