奇跡をもう一度
私は若い頃から作家になる事を目指し、自分の作品を様々なところに投稿していたが、ぱっとせず才能がないと諦めかけていた。そんな私にある出来事がおきた。
ある夜、その日も行き詰まっていると、机の端に小さいおじさんが座っていて、考え込んでいたと思うと、急にスマホの上に乗り、ぴょんぴょん跳ねながら何か文字を打っていく。ぴょんぴょん、時々、息切れしながらも、どんどん打っていく。その文章を読むと実に面白い。それを夢中で原稿用紙に書き写す。それを三日間。ちょっとした短編小説が出来上がった。
その作品をある出版社に送ると、直ぐに連絡が来て、遂には本になり、本屋に並ぶ事となった。売れ行きも上々で、僕はついに作家デビューする事ができた。
まさに奇跡が起きた。
出版社からは第二作目をお願いされたが、あれは僕の作品じゃない。小さいおじさんの作品だ。以前に書いた、僕自身の作品を出版社にだしてみたが、却下される。
(あーどうしよう、また小さいおじさん、出てこないかなぁ)
奇跡をもう一度。
奇跡なんてそうそう起こるわけがないと諦めかけた時、机の端に小さいおじさんが、、、。
キターーーー!助かったーーー!
そしてまたスマホの上でぴょんぴょんぴょんぴょん。
僕は君の幻覚です。この間の作品はあなたが自分で書いたものです。だから諦めないで、楽しく小説を書いて。君なら絶対に書ける!大丈夫!
貴方の幻覚の小さいおじさん
そうか、小さいおじさんは僕自身なんだ。あの作品は僕の作品なんだ。よし!書いてみよう!
ありがとう小さいおじさん!
たそがれ
よこはま〜🎵たそがれ〜♪ホテルの〜小部屋〜♩
五木ひろしの名曲だ。
テーマ「たそがれ」ではこれしか思い浮かばない。
目が細い五木ひろし、紅白歌合戦、ブルース。
昭和だなぁ。
古き良き時代。
きっと明日も
うちの家族は5人家族。両親と僕と妹、弟。両親は共稼ぎで、1番下の弟は保育園に通っている。妹は小学校四年生だけど、忙しい両親を支えるために一生懸命、弟の面倒をみたり、家事を手伝っている。
そんな家族の食事の支度は大変だ。だから、どうしても手軽で簡単なカレーが多い。家族全員、カレーが大好物で特に文句はないが、昨日の夜で無事に三日間のカレー生活が終わって、今日のご飯を楽しみにしていた。
母が今日はどうしても仕事が終わらないと言って、父方の祖母に弟の保育園のお迎えと、夕飯を頼んでいた。
「ただいま〜」
と帰ると、昨日で終わったはずのカレーの、匂いが、、、。
祖母
「おかえり〜、お母さんから急に頼まれて、夕飯カレーにしたけど、あんた達カレー好きでしょ。
待っててね。」
弟
「おばあちゃん、僕カレー大好き」
終わった。
カレー4日目。
きっと明日もカレーだ。
静寂に包まれた部屋
静寂に包まれた部屋、ポタン、ポタンと水道の蛇口から水が落ちる音。あとは何も聞こえない。
カーテンが閉まり、暗い部屋では、今が何時なのか、昼か夜もわからない。
自分が生きているのか、死んでいるのかもわからなくなってくる。
心はすでに死んでいる。肉体もこのまま朽ちていくのか。
それでもいいと思い、目を瞑る。
その時、
「幹太!いつまで寝ているの!学校遅刻するよ!毎朝、毎朝、本当に起きないねっ!机の水溢してポタポタ垂れてるよ。お母さん、もう仕事行くからね!ちゃんと起きるんだよ!」
あー、朝だったのかー、、、。
別れ際に
別れ際に彼から、
「好きな人ができた」
と言われた。返す言葉がなく、その場を足早に立ち去った。4年も付き合っている彼だった。付き合い始めた頃の熱い気持ちはなかったが、愛し合い唯一無二の存在だと思っていた。
別れ際に言われた言葉から逃げる様に帰って来たが、その間の記憶はない。泣くこともなく、ただ心臓の鼓動が大きく速く波打っていた。
好きな人、どんな人だろう。私とは全く違ったタイプだろうか?そういえば彼は、小柄な目がぱっちりした可愛いアイドルが好きだった。私はどちらかと言うと、背が高く痩せ型である。やはり、彼のタイプではなかったんだ。
もう諦めるしかない。泣いて縋る様なことはしたくない。
そして、別れて1年が経ったある朝。ストーカー事件のニュースが流れる。
女子高生にストーカーをして、殺害容疑で逮捕されたのは、彼だった。テレビに映し出される彼の顔を見て、愕然とした。
なんてことをしたの?そんなに彼女のことが好きだったの?私じゃダメだったの?と思いながら泣き崩れた。
でも、何処か心の片隅で別れて良かったと安堵する自分もいた。