通り雨
急にザーっと雨が降ってきた。東の空は明るいから通り雨だろう。
周りを見ても田んぼばかりで、雨宿りするところはない。
仕方ない、真っ直ぐな道を走る。
直ぐに全身水浸しになり、身体が重くなる。走れなくなり、トボトボ歩いていると、急に一直線に陽が差し、雨も降っているので、近くの山に虹が出る。
(あ〜今度はお天気雨か)
すると突然、後ろから若い男性が
「傘ないの?だいぶ濡れているね。大丈夫?」
と、傘を差し出し私に渡すと、走って行ってしまった。
そして走り去った田んぼの向こうから、狐のしっぽがくるんと輪を描く。
狐の嫁入り?
通り雨は止んだ。虹も消えた。
あれは狐のお婿さんだったのかしら?
優しいお婿さんね。
お幸せに。
秋🍁
秋と言えば“どんぐり〟。
小学校の秋の遠足で、バスにのって広い芝生がある公園に行った。
その芝生の周りには、ブナの木がたくさんあって、下にはどんぐりがたくさん落ちていた。
帽子を被ったどんぐり、ちょっと太ったどんぐり、すっと痩せたどんぐり。皆んなどんぐり拾いが楽しくて、夢中で拾ってビニール袋に入れて持って帰った。
帰ってから、どんぐりの入ったビニール袋を机の中にしまい、すっかり忘れてしまった。
数日後、ビニール袋を開けると、いるはいるはクネクネした虫達が。どんぐりに小さな穴が開いている。どんぐりの中にいたんだ。
それけら私はどんぐり拾いが嫌いになった。
そんな経験ありませんか?
そうやってどんぐり嫌いになった人たくさんいますよねー。
窓から見える景色
この病院の窓から見える景色は海である。
ホスピスに入院して二ヶ月。余命半年を宣告されてから、四ヶ月が経った。
28年間しか生きられなかった。大好きな彼と結婚もしたかったし、子供も欲しかった。両親に心配ばかりかけて、親孝行できなかった。
私がこのホスピスを選んだのは、サーファーの彼のサーフィンを、ここから見ることができるからだ。両親が通うのには少し遠いけれど、彼が波の上で舞っている姿を見たかった。
彼が今日も舞っている。なんて素敵な景色なんだろう。白い波を蹴って高く舞い上がる。私が愛した人。
ありがとう。
そして、さよなら。
形の無いもの
心に形は無いけれど、心を形にする事はできる。
例えば、心で感謝をしている人は、「ありがとう」と伝えれば良い。
怒りで心が震える時は、大きな声を出したり、何か熱中するものを探せば良い。
心が悲しい時は、思いっきり泣けば良い。
そうすると、形の無い心が見える事がある。
ジャングルジム
高台の団地のジャングルジムから見る景色は、小さな家がごちゃごちゃと並んでいる景色。
でも私はここが好きだ。
家の庭で愛犬と遊んでいる、小さな男の子。 手を繋いだ恋人が路地を曲がった。 小学校の終わりのチャイムが鳴って、一斉に出てくる子供達。 庭師が大きな木に登ってる
ある家の前には黒い服を着た人達。きっと、大切な人が亡くなったのだろう。
そんな景色をこのジャングルジムの上から見るのが私は好きだ。