反比例した清潔感と生活感
棚を埋めた研究班の総て
開く事を諦めたカーテン
睡魔を誘うのを辞めた折り畳みベッド
皺を寄せた眉間に指先を当てる
落ちた視力の原因は己だと伝える光
眼鏡越しに光を睨んだ刻を忘れるには充分
それほどに月を見送り太陽を迎えた
気がする…
背中を反り肩甲骨を寄せて
指先を絡めて天井へと伸ばす
強ばった身体が解れて
ミシミシと骨が鳴る
…自分が理解すればそれでいい…
自己中心的な思考が見て取れる書類の山を整理するには時間が足りなさすぎる
思い立ったが吉日を行動に移す彼女はきっと天才の部類だ
だからこそ凡人の理解を置いていき
凡人の仕事量をこれでもかと増やす
「コーヒーでも飲むか…」
だがそんな彼女に着いて行くと決めた手前
放り出す事はしない
彼女の隣に立つ男性も
彼女に狂信する女性も
そんな彼らに振り回される少年も
己に与えられた仕事を熟してる
なら自分も同じ事をするだけ
重たい足を引き摺るように動かして給湯室へ
せめて普通の食事を…なんて考えは浮かばない
苦みしか感じないカフェインで脳を起こして
それから…えっと…
『しょーた!』
幼い声で肩を跳ねさせる
一瞬ばかりクリアになった視界には白いカップと
何故かシンクに投げ出されたコーヒーになるはずだった粉末
『しょーたくんつかれてる?』
『…つかれてる?』
同じ患者服を身に付けた顔のよく似た姉弟
名前すら付けて貰えず親に売り出された双子
白衣越しに己の足に引っ付くのは姉の“ササ”
己が何をしてるのかを確認すべく背伸びをしてるのが弟の“サイ”
長ったらしい数字の羅列で呼ぶのは効率が悪いと
自分が付けた渾名を持つ双子
「お前らが気にする事じゃない」
シンクに放り出された粉末を流す為に蛇口を捻る
双子の面倒を見てる少年は新たな雑用でも与えられたのだろうか…
『ゆずくんはせんせーとこ!』
『…せんせえとこ』
「そーか」
流れてく粉末を眺めながら元気なササの声と繰り返すだけのサイの声を聞き流す
少し前まで摂取したかったカフェインの代わりにするには賑やかな声だ
「サイ、ササ」
自分が呼べば紺色の瞳がこちらに向く
少年が仕事に追われてる間
双子が好き勝手暴れないように
「もう寝る時間だ、部屋に戻れ」
『しょーたくんもいっしょ?』
『…まだねない』
「あぁ、一緒に居てやる。サイ、我儘を言うな」
『じゃあえほんよんで!』
『…んー…』
「一冊だけだからな」
ササの手を取り、不機嫌に唸るサイを片腕で抱き上げる
幼子の面倒を見てれば目も覚める
そのはずだ
…
……
………
余計な物が何一つない殺風景な部屋
双子の為に使われる部屋
大人と幼子2人が眠るには狭いパイプベッド
目が覚めたら少年にからかわれるだろうか…
題名:束の間の休息
作者:M氏
出演:👨🏻💻(🎲🔔)
【あとがき】
題材に合わせたのんびりほのぼのとした創作ですね
時間や仕事、責務に追われてそれしか考えられない時は誰しもありますが
時には温かい飲み物を飲んで
ゆっくり身体を解して
欠伸をして
うつらうつらと瞼を落として
休んでみるのはいかがでしょうか?
M氏はシンクにコーヒーをぶち撒けた事があります
勿体ないので皆さんはそうならないように休みましょう
やり残した事なんて無いと思ってた
後悔しないように行動してたと思ってた
だからいつ死んでも受け入れられると
そう思い込んでた
でも人間はそんな単純なものじゃ無かったらしい
まだまだ我儘なあの人はどう生きるのだろうか…
あの人が好んで食べる辛過ぎる食事は誰が用意するのだろうか…
まだまだ教えないといけない事が多い皆に何か残してただろうか…
今日の仕事が失敗だとして…誰がこの仕事を終わらせるのだろうか…
あの人に出来れば逢いたかったなとか…
いつも以上に遅いこの時間
思い浮かぶ全てが他愛無い日常の事
誰かの笑顔とか
誰かの体温とか
愛しくて愛しくて仕方がないもの
守れなくてごめんね
でも全てを投げ出さないから
これからを生き抜く最愛の人の為に
動かした指先にもう力は入らない
題名:力を込めて
作者:M氏
出演:☀️
【あとがき】
何故か題材と逆を行くような創作となりました
分かりやすく言うと力を込めた後ですね
M氏は走馬灯を何度か見る経験をしましたが
全て他愛無い日常が流れました
走馬灯を浴びるキッカケが流れればなんの未練も感じないのにも関わらず
何にもない日常が流れるんですよね
何にもない日常ってこんなにも愛おしいんだって感じさせられます
人間ってよく出来ていますよね
生きていて良かったです
今は笑ってそう言えます
雲一つ無いような
抜ける程晴天の秋空
日が注げば暑くさえ思うのに
影に入れば寒さを覚える
“哀しくなるくらいには好きな季節よ”
笑う貴女を思い浮かべては目を伏せた
何をしてるのかを私に話す事無く
“大人になったら教えてあげる”と
最期まで柔らかな唇に指を立てて
私への秘密を重ねてた貴女
太陽を包む空のような髪色
陽の光を反射して淡い緑
貴女が撫でた髪を
貴女が結わう三つ編みを
同じように触れてくれる人も居なくなった
私の家族は貴女だけ
そう言葉にするのを貴女は拒んでいたけど
実際そうだと思う
ボロボロの肌で地を這う私を
剥がれた爪で地を掻く私を
救ってくれたのは貴女だ
駄作と眉を寄せた人を
哀れと息を吐いた人を
忘れさせてくれたのは貴女だ
言葉も
文字も
感情も
温度も
全部貴女が教えてくれた
“貴女は私に恩を覚えなくていいの”
“生きたいように生きなさい”
“恩にも優しさにも縛られちゃいけないわ”
貴女の居ない世界は今日も私を受け入れてる
貴女の代わりとでも言うように
太陽が朝を伝えてくれて
風が頬を撫でてくれて
花が季節を教えてくれて
月が1日に別れを告げてくれる
貴女の居ない世界はこんなにも優しいのに
貴女の居ない世界はこんなにも寂しい
『ベル!そのガキ捕まえろ!』
『ボクの名前ガキじゃないも〜ん!』
『良いよ!愛藍ちゃん!撮影は任せて!』
『テメェ撮ってる暇があったら捕まえんの手伝え!』
『ライオンくんそんなカッカしてたら禿げちゃうよ〜?』
そんな想いさえも掻き消す賑やかさ
迷惑と有り難さが交じる空間
「人が物思いに耽る時間くらい確保しておいてくれる!?!?」
いったいこの空間は一日に何回怒声をあげさせるのだろうか
題名:過ぎた日を想う
作者:M氏
出演:🔔(💎🍼📸)
【あとがき】
過ぎた日を想う…題材にすると悲しげな雰囲気がありますよね
人間の大半が嬉しい出来事より悲しい出来事を覚えると言います
M氏もその大半に居ます
過去を想い浮かべても悲しい事は鮮明に浮かぶのに嬉しい事は何処か他人事に感じます
でも全て“過ぎた日”ですので
過去の出来事ですので
出演してくれた彼女のように
今は思いの外平穏に生きていますよと
悲しい出来事やそれを前にする幼い自分に
ソッと伝えられれば良いなと思います
また何処かで逢えたら
キミにあの頃を若気の至りだと笑い合って欲しい
また何処かで逢えたら
キミが好きな物を共有して欲しい
また何処かで逢えたら
キミとよく似た子と触れ合って欲しい
また何処かで逢えたら…
また何処かで逢えたら…
また何処かで逢えたら
キミのように言葉で愛を伝えさせて欲しい
題名:巡り逢えたら
作者:M氏
出演:🌧
【あとがき】
書き方が大きく変わりました
M氏です
皆さんに会いたい人は居ますか?
M氏は浮かびはしますけど少しばかり怖いです
出演してくれた彼女のように
自分が相手に渡すものを明確に持っていませんので
言葉も何も出なくなりそうと言う不安を持ちます
彼の名前は英数字の羅列だ
彼は特別ソレに違和感を感じたことなんて無いし感じる程の感情なんて持ち合わせていない
数ある人間と言う生き物の中で“自分”と判断出来るものを、“コレが自分である”と言うものを識別出来ればそれで良かった
だから彼は名を呼ばれれば顔を向けて相手の瞳をジッと見つめるし返事もする
「はい」
なんて味気ない一言を幼児が台本を読むように、なんの気持ちも心もなく放つ
彼は感情が無いわけではない
子供のように近寄っては引っ付く行為を行う事も出来るし、酷く感情が昂れば笑ったり泣いたりもする
感情が表に出るまでのラインが高いだけ
1つばかりしか無い彼の機械らしさが人間らしさを薄めるのだ
『いつまでも英数字の羅列で呼ぶのはめんどうだ。』
素っ気ない理由で付けられた渾名に近い呼び方を彼が飲み込むのに時間がかかった
英数字の羅列を正確に話さなければ彼が反応しないから付けられた渾名
指示を効率よく彼に飲み込ませる為に付けられた渾名
それにも関わらず今では呼ばれれば反応し、僅かながらに“喜”の感情を抱くのだ
『サイ、食事の時間だ。』
冷たく放たれる言葉が鼓膜を揺らし
紺色の瞳を相手に向ける為の合図になる
「はい、先生。」
銀色の髪をふわりと揺らして相手に足を運ぶ
細い身体を包む白衣にソッと手を伸ばし
小さく握る
表情の変わらない彼が名を呼ばれる度に“嬉しい”と言う感情を持つ事を相手は知らないだろう
だが“名前を呼ばれる”のは“嬉しい事”なのだ
それを言葉に出来ないだけ
題名:私の名前
作者:M氏
出演:🎲
【あとがき】
大前提で伝えるとM氏は自分の名前が嫌いな方です
好きと言うには名前の由来も付けてくれた人も苦手でしたので
日常生活で名前を呼ばれると不快に思う程に嫌いでした
ですが名前はあくまで個体識別番号のようなもので
当人と分かれば本名だろうが渾名だろうが蔑称だろうが敬称だろうが関係なかったりします
それに気付いたのは16歳くらいだったと思います
それなら好きな人に自分の名を呼んでもらいたいばかりです
出演してくれた彼のように
…とは言え好きな人から嫌いな単語が出る行為を好ましく思わなさ過ぎて渾名やネットの名前で呼ぶように願っていますが