つぶて

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5/15/2023, 3:59:07 PM

「絶対後悔するから」

あの日、あいつは俺に呪詛をかけて消えた。
俺は気にしちゃいなかった。
後悔なんてするかよ。
吐き捨てて、さっさと田舎町を抜け出した。

上京して知った。
己の甘さ。弱さ。
痛いほどに突きつけられた。
才能なんてなかった。
もがくほど溺れていくような感覚に取り憑かれた。

後悔なんてしてたまるか。
自分に言い聞かせる日々。
これは自分で選んだ道だ。
振り返っていちゃ成功なんてあり得ねえ。
今の自分を否定するなんて、できるわけがねえ。

最近、彼女が夢に出てくるようになった。
絶対後悔するから。

うるせえよ。
そう言って目が覚める。

瞼の奥、堕ちた未来の俺が後悔している。

5/14/2023, 2:41:08 PM

風が吹いて、はらりと音がした。
あっと思った時には後の祭りだった。
ひらひらと楽しげに彼方へと消えていく紙切れ。
慌てて追いかけると、
遠く向こうで男子生徒が拾い上げるのが見えた。
私は咄嗟に何も知らないフリをして、踵を返す。

ノートに挟んでたの、忘れてた。
授業中にこそこそと書いていた私小説。
それも、だらだらと本心を吐露しただけの駄文だ。
ああ、なんということでしょう。
私の赤裸々な文章、知らない男の子に大公開。

さようなら、私の紙切れ。
あなたの持ち主はもう現れないでしょう。
今生の別れを告げたはずだった。

翌朝、学校の玄関に折り鶴が飾られていた。
直感があって、私はそれをこっそり持ち帰った。
折り鶴を開く。

『素敵な文調ですね』

心に風が吹いたような気がした。

5/14/2023, 6:05:29 AM

「明日からしばらく休みとか、最悪」
「宿題多いしね」
「それな。お前、おうち時間何すんの?」

聞かれた瞬間、ドキッとした。
なんて答えよう……。

本当は、小説を書くことしか考えてない。
でも、正直に教えるなんてできない。
またまだ実力ないし、見せてとか言われたらヤだし。
相手だって話の広げようがなくて困るだろうし。

ゲームする、とか言ってみる?
でも一緒にやろうってなったら時間なくなりそう。
ランニング、とか言ってみる?
でも自粛明けバテバテで嘘になりそう。

「んー、やっぱ読書、かなぁ」

心の中で友達に手を合わせる。
苦笑いを浮かべる自分がもどかしかった。

早く、自信を持って答えられるようになりたい。
休みの日、何してんの? に。

5/12/2023, 2:09:06 PM

怒られない為に我慢を身につけ、
浮かない為に同調を身につけ、
気に入られる為に愛想笑いを貼り付け、
常識として礼儀を身につけた。

大人になるため。
社会で生き抜くため。
裸を恥ずかしいと思ったあの時から、
いろんなものを身に纏ってきた。

何重にも覆われたこの体は、
体重も身長もずっと大きくなり、
核をなす無垢な私がどこにあるのかすら判然としない。

子供のままでいられたら。
何もかもを脱ぎ捨てられたら。
そう思うこともある。
だけど、私は案外気に入っているのだ。
鏡に映る私の、苦労、責任、経験、達成感、
少しの矜持と、その他諸々で満ちた姿を。

今日は金曜日。
明日は何を着て出かけよう?

5/11/2023, 2:36:20 PM

外から見た地球はガラス玉のように美しかった。

太陽系を抜け出すと、広大な銀河が燦然と輝いていた。
漆黒の深淵に浮かぶ無数の天体たちに圧倒される。
果てのない宇宙はどこまでも静謐で、
私はじっと貴方の鼓動を聴いていた。

銀河を旅していると、小さな星を見つけた。
小さな島と小さな海のほかには何もなかったけれど、
仄かに碧く光る健気なところが気に入った。

私たちは小さな星に座り、宇宙を見上げた。
二人だけの景色が広がっていた。
言葉では足りないほど綺麗だった。

ようやく見つけた。
ずっと探していた場所。
誰にも迷惑をかけず、冷やかされず、
隠れる必要もなく、
ただ、ありのままを言葉にできる場所を。

私たちは目を見合わせて微笑んだ。
「愛してるよ」
静かなる宇宙の片隅で、私たちは愛を叫ぶ。

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