つぶて

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5/10/2023, 1:50:53 PM

葉っぱの裏って寝心地いいのかな。

教室の後ろ、虫籠の中をじっと覗いていた。
青葉か惰眠を貪っているアオムシたち。
食べ物の上で暮らしているのがカワイイ。
ふわふわのパンにくるまって眠るみたいな生活。
ちょっと憧れちゃう。

天敵もいないから安心安全なのに、
一匹残らず蝶になって飛んでいった。
葉っぱを食べて暮らすよりも、
花の蜜を吸って、子孫を残す方がタイセツなんだ。

昼下がりの教室。
窓の外、ひらひらと舞うモンシロチョウを眺める。
どんな蜜の味なんだろう。
まだ青いままの僕は、頬杖をつく。

5/9/2023, 2:53:43 PM

買っちゃった。
ホントに買っちゃったよ。
自分の部屋に転がり込み、僕はいそいそと鞄を開く。

幻のミステリー小説。
知る人ぞ知る名作でありながら、
なぜかほとんど知名度がなく入手は困難を極めた。
古今東西あらゆる古書店を巡り、
今日、ついに手に入れたのだ。

僕はもう惚れ惚れとして、
本棚に立てかけて写真を撮ってみたり、
子供をあやすように高く掲げてみたり、
それはそれは喜色満面、狂喜乱舞の有様だった。

一通り鑑賞した僕は、机に腰を据えた。
伝説の犯人当てトリック。ゴクリと唾を飲み込む。
高鳴る鼓動を抑えながら、本を開いた。

1ページ目に、ラクガキが書かれていた。

【犯人は赤佐田奈浜ダヨ】


あれから10年、僕はまだあの本を読めていない。

5/8/2023, 12:54:20 PM

お祝いLINEにありがとうを返した私は、
ぽいとスマホを放って布団にダイブする。

今年も開催するらしい。
仰向けになって目を閉じる。
両手は緩く組んで胸元へ。
大きく深呼吸をしてみれば。
来た来た。一年後の私。
一つ年上だから、私はいつも私先輩と呼んでいる。

「…………だ…………ら! ………でね、…………!」
身振り手振りで必死に喋る私先輩。
私も必死に聞き取ろうとするけれど、
毎年のことながら、その声はほとんど聞こえない。

「…………って! ………して…………の!」
「わかりませーん!」
「…………る! …………は………!」
「よく寝る?」
「ちがーう! …………!」

わいわい、がやがや。
やっぱり、よくわからないまま終了。

野菜を食べろ、オシャレをしろ、書く習慣をつけろ、
好きな人を見つけろ、くらいかな?
私先輩の言葉を直感的に要約する。
見込み違いじゃなければいいけれど。
とりあえず、これで頑張ってみますか。

さて。
私は私後輩と対面する。

「フラれたくらいでくじけるなあーー!!」
「わかりませーん!」
「あんたは視野がせまーい!」
「よく寝る?」
「ちがーう! 運動しろー!」


そんな誕生日。

5/7/2023, 3:05:07 PM

「初恋の日だって」
「俺の初恋の日、わかる?」
「え、うんとね……」
所在なさげに考えこむ君を、
俺は小さく笑って見守る。

君はいつまで経っても謙虚だ。
ホントに私でいいの?
俺が告白した時も、最初に俺のことを心配していた。

一緒に過ごすうちに、
俺が君に心から惚れていること、
君には君の良さがたくさんあること、
いろんなことを少しずつ受け入れてくれた。

だけど、こうした時にふと自信を持てない所がある。
「私の知ってる日?」
「もちろん」
「えっとね……」

眉を寄せて一生懸命な彼女が愛おしい。
大丈夫だよ。
何日でも正解なんだから。
君と会った日。君と話した日。君が笑った日。
気付けば恋をしていた。
だから365日、いつだって初恋の日だ。

そう誓ってみせるから。

5/7/2023, 2:24:43 AM

人類の蛮行、いよいよ目に余り。
神の法廷にてその滅亡を恃む声が上がった。
短気な神々は檄を飛ばし、
穏健な神々は異議を唱える。
決議は三日三晩に及んだ。
「では人類に直接問うというのはどうだろう」
その提案とは次の通りだ。

1.全人類に対し、24時間後に必ず滅亡すると知らせる。
2.滅亡の1時間前に全人類に滅亡の賛否を問う。
3.多数決により滅亡の可否を決定する。

滅亡派の神々は笑う。
「愚かな人間どもは我を忘れ、滅亡に身を堕とす」
存続派の神々は固唾を飲む。
「人間は聡明な生き物だ。必ずや存続を願うだろう」

その日、地球上では大混乱が発生した。
犯罪の横行。阿鼻叫喚の嵐。
そして選択の時。
「存続か。それとも滅亡か」
何を今更、と恋人を手にかけた女は言う。
滅亡だ、と泥酔した男は叫ぶ。

勝負は決した。
人類の大多数が存続を選んだ。
「人類も捨てたものじゃないでしょう?」
穏健な神々は莞爾として言った。

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