風が吹いて、はらりと音がした。
あっと思った時には後の祭りだった。
ひらひらと楽しげに彼方へと消えていく紙切れ。
慌てて追いかけると、
遠く向こうで男子生徒が拾い上げるのが見えた。
私は咄嗟に何も知らないフリをして、踵を返す。
ノートに挟んでたの、忘れてた。
授業中にこそこそと書いていた私小説。
それも、だらだらと本心を吐露しただけの駄文だ。
ああ、なんということでしょう。
私の赤裸々な文章、知らない男の子に大公開。
さようなら、私の紙切れ。
あなたの持ち主はもう現れないでしょう。
今生の別れを告げたはずだった。
翌朝、学校の玄関に折り鶴が飾られていた。
直感があって、私はそれをこっそり持ち帰った。
折り鶴を開く。
『素敵な文調ですね』
心に風が吹いたような気がした。
5/14/2023, 2:41:08 PM