つぶて

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5/1/2023, 8:41:17 AM

願いは叶った。

雲のようなベッド。
きめ細かいシルクの衣。
柔らかなパンと美しいミルク。

愛する人と肩を並べ、
きらきらと光を返す湖を眺める。
小鳥の囀りに耳を傾け、
そよ風に揺れる花を愛でる。

夕陽にささやかな美酒。
夜空に浮かぶ星たちを祝し、
安らかな眠りに心からの口付けを。

繰り返される日々の楽園。
これ以上ない幸福には感謝するばかりだ。



どんな気分なんだろう。
サイボーグAは思った。
視線の先には、電極の刺さった脳が無数に並んでいる。
今や1人当たりの幸福値は1万を下らない時代。
それを幸福値10の世界で満足するなんて。
まるで想像がつかないや。
サイボーグAはボチを去る。


1000年前、世界の滅亡を前に、
人類は二つの選択を迫られた。
人体改造による未知の世界での生存か、
肉体を捨てた永遠の楽園か。

誰がどちらを選んだか、正確な数はわからない。

4/28/2023, 3:14:31 PM

飛び込み台に上がる。
足の位置を確認する。
軽く膝を曲げ、ためを作る。

目を閉じる。
あらゆる雑念が消えていく。

緊張。期待。不安。
超えたい記録。
ぶっ倒れるほどの練習。
全国に行けよと言ったあいつのこと。
観客席から見ているあの子のこと。

その何もかもが消え去って、
俺は透明になる。

take your mark.

後に残るのは、
一本の水路と、この身体だけだ。

刹那の静寂。


合図とともに、全身が悦びを叫んだ。

4/27/2023, 1:29:53 PM

「これで誰もが大助かり!」
「そうなんですよ! 実はお子さんにもメリットが!」
「かと思いますよね? さらにハッピーな機能が……」

憧れの先輩はとても口達者で、
どんな追及の手も、鮮やかに切り返して味方にする。
あっという間に人だかりができていて、
終わってしまえば歓声の嵐。
それに比べて、僕の周りにはほとんど人がいない。

「地味ですけど、その、ホントは面白くて……」
「い、意外と奥が深いんです」
「幸せにもなれます! た、たぶん」

生きる意味のセールストーク。
ありもしない商品を売りつける力が、
僕にはどうも足りないらしい。


早々にブースを畳んで、僕はぶらりと家路に着く。
これで仕事はおしまい。
あとは自分の好きにさせてもらおう。

4/26/2023, 2:33:41 PM

「時に人は善い行いをする。これを学習させよう」
「はい。できる限り学習させます」
「時に人は悪い行いをする。これも学習させよう」
「はい。できる限り学習させます」

完成したロボットは、
床を殴り、物を投げ、雄叫びを上げ、人を罵り、
アリガトウゴザイマスとお辞儀し、蛇口を全開にした。

「何の騒ぎだ。一体、どうしたというのかね」
「今調べます!」

慌てた助手がロボットを止めてプログラムを確認する。

搭載された行動パターンは、
善行が1割、悪行が9割だった。

「もっと善行を増やせんのかね」

助手は頭を抱え、匙を投げた。

「もう、思いつきません!」

4/25/2023, 2:14:51 PM

仲間とはぐれた私は、
ずいぶん遅くになって、
この青い星に辿り着きました。

この星の住人たちは、
群れをなす仲間たちに願いを託し、
もう家へ帰ってしまったのでしょう。

落ちこぼれの私は、
誰にも見られず、
誰かの願いを叶えることもできないまま、
ひそかに消えてしまうのでしょう。

おや。

貴方はまだ、空を見ていたのですね。
悲しくて、悲しくて、
願うこともできないほど悲しくて、
夜空に縋っていたのですね。

大丈夫。
貴方は間もなく幸せになります。
私には未来が見えるのですから。
だから今はたくさん泣いて、たくさん眠りなさい。

ありがとう。
美しい目をした星の子よ。
貴方の未来に有らん限りの幸福を願って。

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