つぶて

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4/24/2023, 2:25:59 PM

「覚悟はできた?」
「望むところだ」
「やべえ笑う」
「背縮まるよ」
「俺がパリピ」
「義母を褒め続けて」
「ポン酢」
「土下座」
「治具」
「ばぶみ」
「ナビ」
「銭」
「紐」
「船」
「犬」
「へそ」
「朝湯」
「寿司」
「……」

敗者は叫ぶ。「ぷぺーーー」

4/23/2023, 12:58:41 PM

「もう少し、具体的なエピソードはありますか」
「それは短所ではありませんよね」
「他に、あなたをアピールするお話はありますか」

あーあ、またダメだな、これ。
しどろもどろに話しながら、俯瞰した自分がいた。
そんなに銃口向けなくてもいいじゃん。
開始早々、集中砲火にクロスファイア。
すでに心は蜂の巣もよう。

「では最後に、何か聞いておきたいことはありますか」

もうどうにでもなれっての。
人生を決めるはずの面接が他人事に思えてくる。
練りに練って用意した質問を適当にぶつけ、
そそくさと会場を去った。

冷静になると、俺はひどく落ち込んだ。
ただでさえ能無しなのに、途中で諦めてどうすんだ。
電車内でのひとり反省会。自分に腹が立つ。

でも、後半は悪くなかった。
少なくとも、話したいことは話せた。
何でだ? あれだ。やけになったからだ。
蜂の巣の心は、思ったより軽く、丈夫らしい。

何となく、コツを掴んだという実感があった。

「あれ、先輩。奇遇すね。面接どうでした?」
「まだまだこれからだっての」
「そうなんすか。先輩、スーツ似合いますね」
「ああ? 冷やかすんじゃねえよ」

眉間に皺を寄せて、俺はそっとはにかむ。

4/23/2023, 12:31:24 AM

傘を盗られた。
コンビニで買い直すと700円くらいかかった。
しがない学生には痛かった。

雨の中を歩いていると、やがて怒りは収まってきた。
雨が傘を打つ音は、人を空想の世界へ誘うらしい。

私は私の傘を手にした人物を想像する。
罪悪感とか、ないのかな。
少しくらいあるんじゃないかな、と考えてみる。
そして私はこんな空想をする。

パラパラと傘が音を立てて、
ふと、傘立ての前で立ちすくむ誰かを想像する。
悪いことをしたのはわかってる。
でも、雨降るとか知らなかったし。
どうしても濡れたくなかったし。
言い訳がましく思いながら家に着く。
玄関に残される傘。
それを見るたびにチクチクと小さな罪悪感が積もる。
ある日、軒先で立ちすくむ人を見かける。
咄嗟に傘を差し出す。
手放すにはちょうどいい、と。
渡した人は感謝され、なんだか悪くないと思う。
もう次は盗む気も起こらない。
貰った人は感謝し、親切な人について想像する。
いつかこの傘を誰かに譲ろうと心に決める。

なんて。できすぎた話。
だけど、そんな空想がたとえ間違いだったとしても、
腹を立てるだけよりはずっといい。

手から手へ。あの傘は今日、空想を運ぶ旅に出たのだ。
そういうことに、しておこう。

4/21/2023, 3:31:31 PM

目が覚めたから、縁側に腰掛けていた。
雨上がりの空は、まだ暗い雲に覆われている。
朝日は見られるだろうか。

静寂の中、息をつく。
もくもくと膨らんだ灰色の気分を持て余していた。
柄にもなく緊張しているというのか。

軒先から雫が垂れた。
なんとなく目で追うと、それは地面に染みて見えなくなった。

しずくなら大丈夫だよ。
親友の声が蘇る。
どんなとこでも、すぐに馴染んでやっていけるって。

「だからお互い頑張ろ、か」
呟く。拳を上げて伸びをする。ついでに欠伸も。

大丈夫だ。きっと。上手くやれる。あの子も。私も。


庭先に、桜の木が春を告げようとしている。
今日この里を出る私を、そっと見送るように。

4/20/2023, 3:55:56 PM

対価という言葉を知ったのは、いつの事だろう。

サンタにお礼ができなくて、
新年になればタダでお年玉が貰えた。

期待されてるのだと思った。
私がいつか大人になった時、すごい人間になって、
みんなを喜ばせてくれるようにと。

そう思った次には怖くなった。
無理だ。いつか期待はずれになる。
自分が大それた人間じゃないことは薄々わかっていた。

だからその年の誕生日に、
「お祝い何がいい?」と聞かれて、
「何もいらない」と答えた。
両親が困った顔をしたから、
どうしていいかわからなくなって、涙が出た。

少しは成長した今では、
ありがたく受け取って、少しずつ返そうと思う。

両親に対してもそうだけど、
私を育ててくれた世界に対して。


私には何ができるだろう。
やっぱり今も自信がないや。
それでも、いつか。

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