つぶて

Open App

願いは叶った。

雲のようなベッド。
きめ細かいシルクの衣。
柔らかなパンと美しいミルク。

愛する人と肩を並べ、
きらきらと光を返す湖を眺める。
小鳥の囀りに耳を傾け、
そよ風に揺れる花を愛でる。

夕陽にささやかな美酒。
夜空に浮かぶ星たちを祝し、
安らかな眠りに心からの口付けを。

繰り返される日々の楽園。
これ以上ない幸福には感謝するばかりだ。



どんな気分なんだろう。
サイボーグAは思った。
視線の先には、電極の刺さった脳が無数に並んでいる。
今や1人当たりの幸福値は1万を下らない時代。
それを幸福値10の世界で満足するなんて。
まるで想像がつかないや。
サイボーグAはボチを去る。


1000年前、世界の滅亡を前に、
人類は二つの選択を迫られた。
人体改造による未知の世界での生存か、
肉体を捨てた永遠の楽園か。

誰がどちらを選んだか、正確な数はわからない。

5/1/2023, 8:41:17 AM