空からアイスクリームが降ってきた。
見事に頭のてっぺんに直撃したそれが溶けて額へ、口の中へとつたってくる。
甘い、バニラ味。
頭がじんと冷たい。
ハンカチを取り出してできるだけ拭ってみようとする。
どこから落ちてきたのかと見上げても高い建物もなくただ虚しいほどの雲ひとつない青空が広がっている。
夢、だろうか。
でも口の中は甘くて、頭は冷たくて、ハンカチはベタベタだ。
すると突然、
「お姉ちゃん、踊ろ!!」
小さな女の子の声と共に右手をぐいと掴まれた。
女の子は手を掴んだまま私の周りをぐるぐると走っている。
視界がぐるぐると回る、回る。
そういえば、
そういえばアイスを食べたのはずいぶん久しぶりだった。
女の子は楽しそうに走り続けている。
自然と笑顔がこぼれた。
何もかも嘘みたいだ。
アイスも、青空も、女の子も、私も
でもなぜか楽しい、私の足もつられて動く
すべてが撹拌されて 溶けあっていく
まだまだ まわる まわる
『踊るように』
金曜の夕方はなんだかワクワクする。
週に一度持ち帰る給食袋をランドセルにくくりつけて教室を飛び出す。
明日から二日間の休みをどう過ごそうか。
何でもできる気がする…
このエネルギーを!!
この自由ではち切れそうなこの心を!!
どこまでに行ける、何にでもなれる!!
明日は私のもの!
私のために明日がやってくるのだ!!!
『時を告げる』
いつまでこうしているのだろう
外は怖いものだらけだ
でもずっとこのままではいずれ腐ってしまう
動けなくなってしまう
殻の隙間からは光が差し込んでくる
いいことばかりではないだろう
きっと失敗して傷つくこともたくさんある
でも生きる希望に出会えるかもしれない
明日を待ち遠しく思えるかもしれない
そしたらもう大丈夫と思えるかもしれない
『貝殻』
30秒ほど沈黙が続いた。
彼女はふいに右手をおでこの辺りにやると、
親指で眉間をぽりぽりと掻いた。
それは彼女が泣きそうになった時決まってする仕草だった。
それから幾度か瞬きをして、わずかに俯いた。
まつ毛についた水滴がキラキラと光っていた。
紅潮した頬には細かな血管が透けて見えた。
私はぼうっと突っ立ったまま、昨晩テレビで見た蝉が羽化する映像を思い出していた。
とてもきれいだった。
『きらめき』
地道に何かをやると言うのが昔から得意じゃない。
コツコツと言う言葉は誠実で淡々としていて自分とは無縁な言葉だと思う。
左手の人差し指のささくれを親指でさっと撫でる。
こんな数ミリの傷が気になるなんて人間の図体の大きさを考えればないも同然だと思うのに。