とと

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30秒ほど沈黙が続いた。

彼女はふいに右手をおでこの辺りにやると、
親指で眉間をぽりぽりと掻いた。
それは彼女が泣きそうになった時決まってする仕草だった。
それから幾度か瞬きをして、わずかに俯いた。
まつ毛についた水滴がキラキラと光っていた。
紅潮した頬には細かな血管が透けて見えた。
私はぼうっと突っ立ったまま、昨晩テレビで見た蝉が羽化する映像を思い出していた。
とてもきれいだった。



『きらめき』

9/4/2024, 12:45:33 PM