一年後
「くっそ、ぜってぇ来年同じ大学合格してやるから待ってろよ」
「頑張って、待ってるから!」
死ぬ気で頑張った。夏には余裕の判定貰っても、ランク上の大学を勧められても、脇見もせず遊びもせず、頑張った。
だから、今ここに立ってることに感動とかは無くて。
今何の言葉も出てこないのは、俯いてるのは、逃げ出したいのは、
「お、おめでとう。キャンパスライフ、楽しんで」
会いたいって連絡に、お昼休みに学食でって返ってきた違和感とか。
地元には無いブランドの服とか、綺麗な靴とか、雑誌でよく見るような髪型とか。
どうしようって隠せてない困惑とか。
右手に見えてる指輪とか。
そういうのでも無くて。
「やっと大学生だわ〜。今まで散々我慢した分遊び倒してやるー!」
「え〜、留年しないようにね」
「分かってるって。マジメに授業出て、テキトーにサボって、サークルもバイトもこなして……ちゃんと大学生するよ、オレも」
「……そっか。じゃあ、そろそろ行くね」
「おう、ありがとな」
理想の一年後を、勝手に描いて勝手に裏切られた気分になってる自分が、ひどく惨めで情けないからで。
「たったの一年じゃんよ……」
たかが、されど。言われなくたって分かってる。
何となく、一年後も情けない姿で一人でいる自分の姿が見えた気がした。
初恋の日
「島崎藤村?」
「そう。まだあげ初めし前髪の……って、知らない?」
「あー、何となく聞いたことあるかも。見せて」
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
「ははーん。初恋は実らないの典型だね」
「なんでそうなる?幼さも感じられる素敵な両思いの初恋でしょーよ」
「えっ、これが両思いに読めるの」
「逆にどうしたら読めないの」
「……ほんとに合わないなぁ」
「合わないねえ」
明日世界がなくなるとしたら、
明日世界が無くなりますようにって願う労力が省けるわ。
大地に寝転び雲が流れる……浮かんできたのは、
余計な場面設定やら創作環境指定しないで淡々とお題を出してくれるアプリのお話。
「たーてーぷ?」
「……うぅ、」
「たーてーぷ?」
「おーい、姪っ子が心配してんだから反応しろ〜」
「だからじゃん!2歳児に心配されてるのが情けなくて泣いてんのっ」
「たいのたいのけー」
「ん?」
「たいの、たいの、けー!」
「痛いの痛いの飛んでけだって」
「ぅぁあ……幼児のやさしさが五臓六腑に染み渡るぅ」
「ほら心配してくれてありがとうは〜?」
「ありがと〜。もう大丈夫だよ〜」
「あーい!」
「はーい。………姉ちゃんさぁ、姪っ子にオバチャンに優しくしたら溶けちゃうからやめなって言ってもらえたりとか」
「は?」
「ナンデモナイデース」
#優しくしないで