初恋の日
「島崎藤村?」
「そう。まだあげ初めし前髪の……って、知らない?」
「あー、何となく聞いたことあるかも。見せて」
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
「ははーん。初恋は実らないの典型だね」
「なんでそうなる?幼さも感じられる素敵な両思いの初恋でしょーよ」
「えっ、これが両思いに読めるの」
「逆にどうしたら読めないの」
「……ほんとに合わないなぁ」
「合わないねえ」
5/7/2023, 1:47:14 PM