「透明な涙」
どれだけ傷つき、嬉しく、想い、激昂しようと、観測されなければそれは無い涙。
誰にも見えない涙は存在しない涙。
見えて欲しい相手にだけ見せない涙もこの世に生まれない涙。
今まさに、私は涙しているけれど、ほらあなた、見えないでしょう。
「あなたのもとへ」
まあ長いこと時間がかかりました。
半世紀は経ったように思います。もう細かなことは覚えていないほど。
それもこれもあんなに早く逝ってしまった人のせいです。
そのせいで私、ずいぶん苦労しました。
恨み言のひとつやふたつ、いいえ、もう100個も200個も言っていいと思うんです。
さて、そろそろ時間ですね。
姪っ子がそわそわしている。もじもじもしている。
姉不在の家で、不審者のわたしと世界で一番お姫様な姪っ子の2人だけ。
こういう時、どう声をかけたらいいんだろう。
どうしたの?って自然に、微笑みながらなんてムリムリ。
一応気にしてるよって、チラ見するくらいしか出来なくてごめんよ。
「あのね、」
キタ。
どうか次の言葉がシミュレーションした中にありますように。
「あのね、」
「うん」
「おみみちょうだい」
まさかの耳なし芳一。千切られるわけじゃなかろうな。
2人しかいないのにナイショ話。
姪っ子はそっとわたしに耳打ち。
「ママのおたんじょうび、てつだって」
はい喜んで〜!
#そっと
「あの夢のつづきを」
将来はオタク同士で同居しようね。
まあ、あるあるなおふざけ約束。
中学で会ってから好きなジャンルは被りつつ推しは被らない、男の趣味が合わないが故に派手な衝突も喧嘩もなく、仲良くオタク友達してた。
で、お決まりの約束。
将来はアパート一棟買ってオタク同士で支えあって老後を過ごそう。
アホだなって思う。当時だって家賃収入とか嫌にリアルな話しながら笑い転げてたし。別にお互い、本気だったんじゃなくて。
ほんと、一緒に暮らせるなんて微塵も思ってないけど、ずっと友達のまま一番の理解者でいようねって、そういう確認だったなって。
あくまでも夢物語。
お互い地元を離れたが最後。
距離は熱だ。
どんなに取り繕っても冷めていくのは仕方ない。お互い様だもん。
だから、最初から約束を守ろうとか守って欲しいとか思ってなかったのに。
「ね、ほら!こことかいいでしょ、駅近駅近!」
「病院へはバス一本、買い出しはこっちのデパート。大丈夫よ、アニメイトはほらここ!ね?私達の最強ハウスよ!」
「お金ならお互いいい歳だもの、たんまりあるでしょ?ここならもう誰にも邪魔されない。ね?」
まさか半世紀経ってあの日の夢のつづきを見せに来るなんて。
いいのね? もう若くないから、夢だって本気で見ちゃうんだから。
「家賃収入はどうするの?」 (了)
#あたたかいね
「寒い」と言うのももう飽きた今日この頃。
寒さなのか気圧なのか、夕方になると膝関節が痛くなる。
帰ったらすぐコタツのスイッチ入れなきゃ。
[これから帰ります]
毎日同じメッセージを送ってから車のエンジンをかける。
[了解です]
毎日同じメッセージを確認してからギアをドライブに入れて……
[今日の夕飯は豚汁です]
いつもと違う追伸。
豚汁。
アツアツの豚汁に七味をパラリ。今日は特に寒いし、かんずりもちょっと溶かしちゃおうかな。
ギアをドライブに。フットブレーキを外して。
いざ豚汁の待つ我が家へ。