誰にも言わないでね
わたし、実は「螳?ョ吩ココ」なの。
秘密ね。
ね、ちゃんと聞こえた?
#誰にも言えない秘密
クーラーの設定温度を2度下げて
梅雨寒だからと
肩寄せる君
#梅雨
半袖
「だる……」
暑さで目が覚めるほど不快なことはない。
寝る時は冷えてた空気が、生ぬるく重さを持って身体にまとわりついてくる。
そういう時期だ。分かってる。
喉がひっついてカラカラ。朝に水飲んだらお腹壊すのに。
――今日は一日晴天、行楽日和でしょう。
うるさい、うるさいうるさい。
ゴールデンウィークがなんだってんだ。世の中の、アンタたちが享受してる「楽しい」を作り出してる側の気持ちにもなれば?
「ほんとサイアク」
人前に出れたもんじゃない仏頂面をマスクで隠して、バス乗って、電車乗って、歩いて。
サイアクサイアクサイアクサイアクサイアクサイアクあ~~~~~~~~~~~~~~~~~
「なっちゃーん!」
あ。半袖。
「なっちゃん、おはよ」
「はよ。半袖じゃん」
袖口の広い、ゆったりしたデザインの白カットソー。よく似合ってる。
「今日暑いって聞いたから! がんばろうねっ」
「そーね」
バイト仲間の、風になびく半袖で許されるくらい、アタシの世界は単純。
あの頃の不安だった私へ
何にも解決してないから不安に思うだけ無駄だから飯食って寝ろ
「突然の別れ」
――盗られた。
もぬけの殻になった部屋へ通されて、咄嗟にそう感じた。
盗られた、奪われた、不意打ちだ、卑怯者の仕業に違いない。
人間、本当に怒ると身体の表面は熱いのに胃のあたりは冷えるんだと、実感できたことだけが収穫だ。
後は何も無い。
部屋の中はなんの変化も無かった。ひとつも。さっきまで居たみたいだ。それが余計に「盗られた」ことを際立たせていて腹立たしい。いっそ荒らされていたならまだ救いはあった。
分かっていたのに。
分かっていた。
そういう人間だ。
楔を打たなくちゃ簡単に流れていく。
分かっていたのに。
自分が楔になることを先延ばしにした。自業自得だ。
よりによって。
ああ、もう駄目かもしれない、手遅れかもしれない。
今この瞬間も誰かが楔になろうとしてる。
手の届かない、視界にも入らない場所で。
最悪だ。
最悪だ。
こんなになってじゃなきゃ、嫉妬心すら自覚出来ない。
お願いだから、誰のものにもならずに帰ってきて。
誰の手も取らないで。
誰の目も見ないで、誰の声も聞かないで、誰の体温も知らないで。
悲しいことも怖いことも、楽しいことも嬉しいことも覚えないで。
前向きにならないで、後ろ向きにならないで。
諦めないで、諦めて。
許さない、許されない、こんなのは認めない。
君を奪われた。
君を与えられて、奪われた。
理不尽だ。こんなのはもう暴力だ。
盗んだ側に同情すらする。
同じ目に遭うんだ。与えられ、奪われる。いい気味だ。
そうだ、これは別れじゃない。
必ず戻る。例え変質してしまっていても。
これは別れじゃない。罰でも無い。天災だ。
こちらにとっても、あちらにとっても。可哀想に。
戻っておいで。
全部置いて、全部捨てて、全部傷つけて、全部。
サヨナラも言わずに、まるですぐ戻るみたいに。
奪い合うのは、こっちで勝手にやるからさ。 (了)