『終わりにしよう』 No.103
もう、終わらせたいのに
まだあいつは現れもしない
「もう、私たち…おわりにしましょう?!ねぇ!」
静まり返る部屋。
すると、現れた。
─シューッ…
彼女が放ったスプレーから崩れ落ちてきたのは、まだ血を吸っていない蚊だった。
『優越感、劣等感』 No.102
才能なんて分からない
最下位なんか分からない
才能なんて分からない
一番なんて、分からない
『目が覚めると』 No.101
目が覚めたら、
あの世へ行っていたい
目が、覚めたら。
天国のおばあちゃんに「ごめんね」っていいたい。
目が…覚め、たら。
天国のおじいちゃんに「ありがとう」を伝えたい。
目が覚めると、
雲の上にいた。
『街の明かり』 No.100
吐息が寒さに掠れて白く濁る。はぁ、はぁと息切れが激しい。しんしんと降り注ぐ粉雪が、黒いローブに染みていく。当たりは真っ暗だ。
なんとなく家を飛び出したのが、悪かった。
何ももっていない。ランタンさえも。
濁った緑の街灯からこぼれ落ちる、小さな光を頼りにするしかない。ローブにしっかり体をうずめ、小股で少しずつ、進む。厳しい寒さで手先が赤くなっていく。かおに近づけて息をはあっとかけても、固まった手は柔らかくならなかった。
深夜の街の光が、ぽつぽつと見えるかとおもえば少しずつ消えていく。みんなが夜を迎えているのだ。私はそれでも、家にかえらなかった。
やがて街の明かりがほとんど失われてから、私は錆びたベンチに横になった。すっかり冷え切ったベンチは緑の塗装が剥がれ落ち、人が座ったような温もりはなかった。
頬に舞い降りる粉雪は優しかった。
街の明かりがもどる、そのときまで。
目を閉じて、私はねむる。
『七夕』 No.99
「あなたは何をお願いするの?」
それは、近所の夏祭りのことだった。
七夕にちなんで高々と掲げられた笹に、薄紅色の短冊を掛けていたら、となりの小さな女の子に聞かれたのだ。
だから、引っかけた短冊を小さな女の子のおでこまで下げて、
「志望校に受かりますように」という目標を、近くでみせてあげた。
女の子はたいそう喜んで、
「がんばってね」とだけいって、走り去った。
もう一度短冊をかけ直すと同時に気づいたが、勝手に見るのはなんだか申し訳ないから、見るのは避けた。
となりの、女の子の灰色の短冊を、みるのは。
私は笹に背を向け、友達の方に駆けていった。
下駄をカランコロンと鳴らして。
ちょうど後ろでは、女の子の短冊が爽やかに揺らいでいた。
─地球戦略が、我々の勝利にオワリマスヨウニ