雨音

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『街の明かり』    No.100



 吐息が寒さに掠れて白く濁る。はぁ、はぁと息切れが激しい。しんしんと降り注ぐ粉雪が、黒いローブに染みていく。当たりは真っ暗だ。

 なんとなく家を飛び出したのが、悪かった。
何ももっていない。ランタンさえも。

 濁った緑の街灯からこぼれ落ちる、小さな光を頼りにするしかない。ローブにしっかり体をうずめ、小股で少しずつ、進む。厳しい寒さで手先が赤くなっていく。かおに近づけて息をはあっとかけても、固まった手は柔らかくならなかった。



 深夜の街の光が、ぽつぽつと見えるかとおもえば少しずつ消えていく。みんなが夜を迎えているのだ。私はそれでも、家にかえらなかった。


やがて街の明かりがほとんど失われてから、私は錆びたベンチに横になった。すっかり冷え切ったベンチは緑の塗装が剥がれ落ち、人が座ったような温もりはなかった。

 頬に舞い降りる粉雪は優しかった。

街の明かりがもどる、そのときまで。

目を閉じて、私はねむる。

7/8/2023, 10:32:17 AM