突然ですが!夜中のブランコって乗った事、ありますか?
私は、今、よ、よよ、夜のブランコに、そ、そそその…す、好きな人と乗っています…(えぇぇぇぇ!!?)
というのも、まだまだ春も程遠い冬の中、何故だかすごく佐藤先生に会いたくなって会えないかなーなんて思いながらフラフラと家を出た30分前。どうせお母さんもお父さんも仕事でほとんど帰ってこないんだし。ストーブも電気も消して鍵をかけて隣町の人気の少ない公園を目指して歩き出した。隣町なのは、佐藤先生がたまに出現するって知ってるからで、たぶん、先生の家からも近いんだと思う。大好きな先生の事を沢山考えながら足早に公園へ向かった。
キィー。古びて色褪せたブランコが鈍い音を歌った。これがいわゆるレトロってやつなのか。サッと腰を下ろすとその冷たさに少しだけ背筋が伸びた。白い息をフーっと吐き出す。夏よりも冬の方がずっと好き。寒ければいつもよりも近付けるから、なんて浅ましい理由もあるけど。目に見えるこの息がちゃんと生きてるって感じさせてくれるから。宙を行ったり来たりしているうちに寒さなんてどーでもよくなってひと蹴りひと蹴り丁寧にこいだ。
「まぁまぁ元気だこと」
いつもの誰よりも聞いたこの大好きな声。私はこぐのをやめて隣のブランコに目をやった。
「佐藤先生、こんばんはー!」
「こんな時間にJKが出歩いちゃダメでしょ?なんで家を出てきたのかな?」
「いや、職質かー!補導されるにはまだ早すぎる時間ですよ…ちなみにお兄さんはどこから来たんですかー?お家まで送って行くから教えてよ〜」
「それ職質じゃなくてナンパじゃねぇか!いや、本気で結構夜に出歩くよな、工藤。危ねぇからやめとけ」
「でもそういう時に限って先生がいてくれるじゃん」
「ありがたく思えよ、一応たまに巡回してるからな」
「え?それって徘徊の間違いじゃ…認知症にはまだ早いッたたたた」
「はーい黙りたまえー。で、なんで出かけてんの?」
「会いたかったから、先生に。寂しかったから」
少しだけ沈黙が流れる。これは、、、やってしまったかもしれない。引かれちゃったかもしれない。
「…ん?待て待て。連絡してくれたら会えんだろ」
「それはそうだけど!」
嬉しさと何か少し拗ねたような感情が入り交じってこれ以上言葉を紡げなくなった気がした。
「俺に連絡すんの嫌?」
目の前に屈んで顔を覗き込む先生に私はまた少しだけ拗ねた。
「だって…面倒だって思われたくないもん。嫌われたくないもん」
「思わねぇよ。毎日熱烈なプロポーズされて今更嫌わねーよ笑それより夜中出歩かれる方が困んの。何かあってからじゃ工藤を助けられないしな」
「…ごめんなさい」
「ん。じゃ、送るから家帰るぞ」
せっかく会えたのに、今日もまた先生のペースに乗せられてまた何事もなかったかのように振舞われる。
「……嫌。今日、家誰もいないから一緒にいたい…」
少しだけ出過ぎた我儘。それでも先生だけはこの我儘を許してくれる。
「……それ、意味わかって言ってんの?」
真っ直ぐ見つめる先生にまた拗ねたような我儘を重ねた。
「今日くらい帰さないでよ。最近ずっと会えなかったし…明日だって休みじゃん」
「うーわ、なんだ今日の工藤相当甘えモードだな。いつものプロポーズはどこ行ったんだよ笑」
「少しくらい素直になったっていいじゃん?大好きな気持ちは変わらないんだし」
「健気だよなー本当。ま、そこが可愛いだけどなー」
「…え?い、今可愛いって…え?先生もっかい!」
「バーカ、何回も言ってやるか。ほら、早く帰んぞ」
先生のあったかくて大きな手を握って私達はまた真っ白な息を吐き出して笑う。生きてる、私、たぶん先生といるこの時間が1番幸せ。
題材「ブランコ」
「お前はもっと勉強するべきだろうが!下っ端にいるくせに調子に乗ってんじゃねぇ!」
お父さんにそう怒鳴られて私はお決まりのように身体が震えた。家を静かに飛び出して、冷えきったアスファルトを蹴りながら夢中で走った。隣町の川沿い。橋の下にそっと息を潜めた。
「なんでこんなのもわかんないかな…姉として恥ずかしいわ」
「いっつもスマホばっかりいじってるから頭が悪いのよ」
「どうしてお前だけこんなに頭が悪いんだ!もっと努力しろよ!!」
数々の罵詈雑言を浴びて生きてきた。何か言われる度に黙り込む事しか出来ないし、誰かが話している声が私に向けられたものだと思って震えが止まらない。呼吸を必死に整えて、徐々に冷えていく指先を首に当てた。
「なぁ、ここで何してんの」
不意をつかれて身体が強ばった。視線をズラすと、そこには幼馴染がいただけだった。
「なんだ…アンタか。いや、別に。散歩してただけ」
「嘘つけ。なんかあったんだろ。無理には聞かないけどここは寒いからどっか移動するぞ」
無言で頷き、私は彼と夜道をフラフラと歩いた。
「なんかさ、もう疲れたんだよねーたぶん」
「…そっか」
「周りの声聞くのとかどんなに頑張っても報われないとか…これが現実かー厳しーって」
「……」
流れる沈黙に気まずさは覚えなかった。むしろ、そんな時間すら理解し合える仲だったし。
「…あのさ、お前…死ぬなよ、絶対に」
「は?…え、待って待って、なんでそうなる?」
「いやだから別に…ただ死ぬのだけはやめとけよって」
「……まぁ、そこまでは考えてなかったけど、約束はしとく」
「俺はお前が死ぬくらいなら親父さんとか家族とかお前の事苦しめてる奴から連れ出すくらいは…できる」
「ありがとね。。。あー帰りたくないわー」
「俺も帰したくねーよ」
「……?」
「そんな変に捉えんな。どう考えても今の状況で帰したくはないだろ、」
「そだよねー…アンタは私の命綱だからねー」
「……本気で。いつでも連絡していいから。遠慮すんなよ」
「わかってる。ありがと」
このまま時間が止まればいいと思った。苦しめられる事もなく、言わなくても全部わかってくれるコイツとただずっと一緒にいたかった。冷えた空気も繋いだ私たちの手の温もりには勝てなかったみたいだった。
題材「ずっとこのまま」
寒い。ただひたすらに寒い。暖房もこたつも付けてないから当たり前。それでも付けないでいるのは今から外に出ようか迷っているからだ。教員人生で何百何千という生徒受け持ってきたが、最近はやたらとたった一人の教え子の事が気になって仕方がなかった。誰かを優遇とか贔屓とかそんな事をすんのは教員失格だと頭ではわかっているつもりだが、あいにく、人間の本能に抗えるような強い精神を俺は持ち合わせていなかった。
意を決して外へ出る。今日は愛車を出さず、あえて徒歩で移動することにした。つい先日までのクリスマスムードはいつの間にか年末へ変わり、里帰りなのか人がやたらと増えた。人混みに身を任せてそれはそれはブラブラと歩き続けた。少しコーヒーが飲みたくなって目先にあるコンビニでコーヒーを…とも思ったが、無意識のうちにカフェラテを買ってしまったらしかった。それにLサイズ。普段はこんなミスなんてしないのにとうとう頭もイっちまったか。
公園の隅でひと口、またひと口と苦くもない液体を啜った。
「彼女待ちだったり…します?」
聞き覚えのある声がして視線を下ろすと隣に工藤が立っていた。
「あ?なんだ工藤、最初に会ったらこんにちはだろ?」
「立ってる佐藤先生もすごくカッコイイです。結婚して下さい」
「話を聞けよ!はい、ご挨拶はー?」
「ふぁぁぁ…ほっへが…へんへ、こんいひは」
「はーい、よく出来ました」
「ホントに…そうやって女子のほっぺた触ったりして…まさか私以外に女が!?誰よその女!!?」
「勝手に茶番を始めるなっての、そもそも付き合ってねぇんだわ」
「あだっ……ところで、先生何してたんですかー?」
工藤に会いに…ってのは言えない訳で、俺は小さな嘘をつく。
「あーなんか適当にぶらぶらしてんだよ、その辺」
「彼女じゃなくて良かったー」
「工藤は何しに来たんだ?」
「私は…その…佐藤先生いるかなーって…その……出会えたらあわよくば先生のお家特定でも…」
「アホか。ストーカー行為で訴えるぞ」
「あでで…先生の優しい叩き方すら惚れそうです…新たな扉が…ふわぁぁぁぁぁ…ほっへがぁぁぁぁ」
「あんまり調子にのんな笑ったく、工藤はいつもふざけすぎなー笑」
「ふっ…ふざけてなんかないです!私は佐藤先生の事が誰よりも大好きで将来は絶対お嫁さんになるんです!」
「へーへー…せいぜい頑張れよー断るけどなー」
「諦めませんしー?あっ、先生カフェラテなんて珍しい…私にもひと口、ひと口ー!」
「ガキじゃあるまいしちゃんと頼めよ笑ほれ、やるよ…あ、これで間接キスなるけどなってもう遅いか」
「の、のの、、飲んじゃった…先生…と……///」
こういう時だけ素直に照れやがって全く初心な奴を見るとどうしてこんなにも胸が高鳴るんだ。アホか、俺は。
「さっ、知り合いに見られないように散歩でもすっかー」
そう言って工藤の手を引いた。滑らかで小さなその手がギュッと握り返して、俺の手は…俺の全身が熱を帯びた。寒いなんて…もう言ってられないか。冬の寒さも今日だけは静かに遠のいて行った。
題材「静かな終わり」
いつも通りの週末。ピンポーンとインターホンが鳴ったので出ていくと従姉妹がまっさきに飛び込んできた。
「ねぇね!遊びに来たよ!」
「ふぇ?……あらー、ちーちゃんいらっしゃい」
あとからフラフラと伯母さんと伯父さんが歩いてきて、事情を聞くには育児に疲れたので今週末は面倒を見て欲しいとの事だった。そんな事なら任せろと、私は従姉妹のちーちゃんを連れて街へ出てきた次第である。
「ねぇね、ねぇね!あっち見たい!あっち!」
「よし、行くぞー!」
「ねぇね!そっちの方に可愛いキラキラしたやつある!行きたいー!」
「任せて、一緒に行こ行こー!」
とまぁ従姉妹に散々付き合ったが、午前中だけでもだいぶ体力の限界を感じた。現役高校生でもこんなに疲弊しちゃうか…恐るべし、子供よ。
「ねぇね!あっちあっちー」
「あ、こら、ちーちゃん。走っちゃダメー!」
従姉妹がつまづいて転びそうになった時、誰かがひょいと拾い上げた。
「あんまり姉ちゃん困らせんなよなー嬢ちゃん」
「はーい!おじさんありがと!」
「すみません、助かりました…って佐藤先生!」
「よぉ。見かけたから絡みに来たけど、相当疲れてんな」
「従姉妹のお世話頼まれちゃったんで…まぁ」
「そっかそっか。じゃ、俺も手伝うわ」
「そんな、大丈夫ですよ!迷惑かけちゃうので」
「ちーちゃんって言うんだったっけ?お腹、空いてるか?おじさんとご飯食べに行くか?」
「ちーちゃんお腹すいた!行くー!」
「あ、ちょっと…!」
そうして佐藤先生に助けて貰って近くのファミレスでなんとかお昼を迎えた。
「今ちーちゃんのジュース持ってくるからおじさんとお話して待っててね」
そうして、私は席を外した。
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「おじさん、1つ聞いてもいーい?」
「なんでもどうぞー?」
「おじさん、ねぇねの事好きなのー?」
「ゴホッゴホッ………どうして?」
「だってだって、おじさんのねぇねを見る目とかねぇねにする事とかパパがママにするのとそっくり!」
「……そっか…」
「ねぇねもね、おじさんといる時すごく幸せそうにしてるの!ママがパパにするのとそっくり!」
「……。ちーちゃん、おじさんとの秘密、守れるか?絶対誰にも言っちゃダメだぞ?」
「ちーちゃんは守れるよ、大丈夫大丈夫!」
「実はな、おじさんはねぇねの未来の旦那さんなんだ(小声)」
「えー!ねぇねはおじさんのお嫁さんになるのー!?(小声)」
「そうだ。だからな、ちーちゃんがもう少し大きくなったら綺麗なドレス着たねぇねを見せてやるからそれまではおじさんとの秘密だからな(小声)」
「わかった!ちーちゃん楽しみにしてる!」
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「お待たせー。ちーちゃんはりんごジュースね。先生は烏龍茶好きでしたよね?どっちがいいですか?」
「氷ある方で。ありがと」
「わぁ、ねぇねとおじさん本当に結婚してるみたい」
慌てて従姉妹は口を塞いで、私は衝撃的な台詞に驚いた。
「そうだろー?俺たちはそんぐらい仲がいいんだ」
そう言って先生は私の手を握った。突然の事で驚きはしたけど、目くばせに応じて私も手を握り返した。
「そうよ、仲良しだからね。ちーちゃんもおじさんと仲良くなれて良かったね」
なんとなくその場の空気を変えることはできたけど、私はドキドキしたままだった。
家に帰って従姉妹と遊んでいると、その日のうちに伯母さんと伯父さんが元気を取り戻したらしく引取りにやってきた。平和に戻った家で疲れが滲み出たものの、あっという間に過ぎ去った先生との時間が少し恋しくもあった。
「結婚かー…子供ができたらあんな感じなのかなー」
そうぽつりと呟いて、私は深い深い眠りについた。
※本日の題材はフリーで書かせて頂きました。
息ってこんなに白かったんだろうな。
ため息を吐き出したつもりが、こんなに綺麗に濁っちまうと澄んだ空間を汚したみたいで嫌になる。教師とかいう厄介な仕事は早朝出勤残業続きでブラック企業と同じ扱い。そんでも、ガキ達の顔を見りゃなんでもチャラになるんだもんな。いいよな、青春って。
なんだかんだ考えてから車を出した。
ラジオから流れる今流行りの曲を切って、夜に似合うようなジャズ音楽を掛け流し。赤信号が静かに停止を促した。ハンドルに手をかけて最寄りのコンビニへ視線をうつす。そこには、見覚えのある青々とした教え子が一人立っていた。迷わずウインカーをあげて駐車場へ入る。彼女のもとへ一歩、また一歩近づいていく。
「あ、佐藤先生。こんばんは」
こちらに気付いてはにかんだ彼女。まだまだ未熟さが滲み出るような若々しい表情だった。
「女子高生がこんな夜遅くに出歩いてんじゃねぇよ。おっさんでも出たらどーすんだ」
「えぇー笑…そんな事あっても先生が助けに来てくれるじゃん」
「ふざけんなよ笑…あ、工藤コーヒー飲んでんのか?午後3時以降のカフェインは控えろ、成長期なんだから、って事で没収な」
「ひどーい…大人の味を楽しんでたのに笑」
「はいはい黙れ黙れー。体調は?大丈夫か」
「おかげさまで。昨日はありがとうございました。地震なんてもうへっちゃらです」
「強がんなよな、ガキんちょが。誰かに助けを求める事も学べよな」
「心配かけてすみませんー。じゃ、夜遅くなっちゃったんで帰りますね」
「待てよ。送ってく」
「先生がそういう生徒と一線超えるような言動はまずいんじゃないんですかー?笑」
「ま、その時はその時で責任とってやるよ」
「…!?え、佐藤先生、私の旦那さんになってくれませんか?結婚して下さい」
「アホ。応えてやんねえよ、学生の分際で」
「じゃあ卒業するまで告白し続けますから」
「いいから車乗れよ」
そうして俺は工藤を乗せて車を出した。殺風景だった景色がいつの間にか色彩溢れる愛おしい世界に変わった。勝手に曲を変えて歌を口ずさむ工藤はまだまだガキで、でもいっちょまえに歌が上手くて。こんな時だけ早く過ぎ去る時間を少しだけ憎くも感じた。
「ありがとうございました」
「おー、早く寝ろよな」
そう言ったものの、工藤はこちらを見つめて訴えかける。
「ダメだ、キスはしてやんねぇよ」
いつもみたいに頭を掻き回すと、少ししょげたように視線を逸らした。
「あとで電話してやるから落ち込むなって」
「佐藤先生のそういうとこ、本当に大好きー」
優しく小さい体で俺を抱きしめると工藤はそのまま家に帰った。
星たちが近づく聖夜を知らせている。澄み切った夜空を眺めながら俺は工藤に電話をかけた。
題材「夜空を越えて」