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10/19/2025, 6:22:09 PM

君が紡ぐ歌

ボーカル彼女

ギターわたし




 車のクラクション、エンジン音、足音、話し声、電光掲示板から流れるチャチな音楽、すべてがごた混ぜになって鼓膜をじんじんと震わせる。
 思わず顔を顰めたわたしに、彼女はぷっと小さく噴き出した。うふふ、なんて少女漫画のヒロインみたいに可憐な笑い声は、漣立つ雑踏のなかでずいぶんとハッキリ聞こえて、そして妙に浮いていた。

「だからやめたらって、私、言ったのに」
「うるさい」
「まあ。うるさいなんて、ひどいわね」

 ふわふわした栗毛の髪が、歩くたびに陽光を弾きながら彼女の背中で揺れている。金魚の尾鰭みたいなチュールスカートも相俟って、水中を泳いでいるようにすら見えた。

 ぱっ、ぱっ、と、視界の端で青緑色の信号機が点滅するのが見えた。わたしたちは慌てて横断歩道を小走りで渡りきる。けれども焦っていたのはわたしたちくらいなもので、周囲の流れは青信号を渡っていたときとなんにも変わらない。赤信号、みんなで渡れば怖くない。古くさい冗句を思い出し、わたしはため息を吐く。僅かに乱れた呼吸が整ったので、肩にかけた荷物を担ぎなおす。

「どこにする?」

 わたしが聞くと、彼女はうーんとあたりを見渡した。

 今日は休日で、歩行者はそれなりに多い。みんなスマホに目を落としていたり、並んだショップを眺めていたり、ぼんやりと歩いていたりと、さまざまだ。誰もわたしたちを見てはいない。それにほっとして、わたしは同時に不安になった。
 
「ここでいいんじゃない?」

 彼女はわたしたちの立っている場所からほんの数メールほど離れた地点を指差す。「いやあのさ、」私の頬がひくりと引き攣った。ただの歩道じゃん。

「マジで?」

 いちおう遠回しに聞いて(異議申し立てとも言えるかもしれない)みると、彼女は「そうよ」と頷いた。てっきりここから近い公園とか、そういう、なんていうか、人がたくさん居過ぎないような、適度な人口密度の広場でやるって話をしていたはずだ。雰囲気が良さそうな場所がいいよね、とゆるく決めていたせいかもしれない。あるいは、自由気ままで猫のような彼女の性格を勘定に入れていなかったわたしの落ち度か。

「ここでなくてもいいんじゃないの」
「そうかしら。たくさんの人に聞いてもらえるわ」
「...かもだけどさあ。まずあっちの公園でやってみようって話したじゃん」
「そうだった?」
「そうだったよ」
「でも、ここの方がいいと思うの」
「ええー...」
「イヤ?」
「イヤっていうか...人多いし」
「多くなきゃ意味ないじゃない」
「そうだけどさーあ...」

 心の準備ってものがある。
 公園にいるのは親子連れとか、ランニングとかしに来てる人とか、ピクニックしてる人とか、“公園に来る層”というのがある程度読める。個人的な感覚としては、心にゆとりのある人間が多い。
 でもこの路上を歩く人たちは分からない。だってここはただの道だ。目的地までの通過地点。いろんな人がいて、この先の分岐路でみんなそれぞれの目的地へ歩いていく。
 そういう人間の足を止めさせるなんて、わたしには難易度が高すぎる。
 
「だいじょうぶ」

 彼女が私の手に触れる。ギターケースのストラップを握りしめていたわたしの手に。 
 細く白い指先が、皮膚が厚くカサついたわたしの手をきゅっと握る。それは最早握るというより、リボンが巻き付いたくらいの柔らかな感覚だった。
 
「……」
「笑われたって、二人だわ」
 
 だからだいじょうぶ。
 彼女は親指のひらで、わたしの手の甲をなぞる。
 
 
 なんにもだいじょうぶじゃないのよ、と、言えたらよかったのに、わたしは俯いたまま唇を引き結ぶことしかできなかった。
 わたし“だけ”が笑われるのはいい。下手くそだと晒し上げられたってべつにいい。でも、彼女が嘲笑の対象になるのは心底いやだった。
 
 
「笑わせるもんか」
 
 彼女のまるい瞳が、ぱち、と瞬いた。
 わたしは背負っていたケースからギターを取り出す。使い古したアコースティックギターは父親から譲り受けたものだ。小さいころはオッサンくさいと思っていたけど、いまはその渋さが気に入っている。エレキギターの肌が痺れるような音色も好きだけど、身体の芯をじんとさせる優しい弦の音も、わたしは好きだ。なにより、彼女の声とよくマッチする。
 
 おもむろに支度を始めたわたしに、彼女はワタワタと持っていた荷物をまさぐる。だいじなマイクに、ネットで配信するためのスマホ、スタンド、ほか色々。わたしはチューニングをしながらその様子を眺めていた。アコギの音に気づいた歩行者がチラチラとわたしに目を向けて、そうしてそのまま通り過ぎていく。
 
 
 軽く弾いた一音一音が、真っ直ぐに空へと響いていくようだった。
 室内では到底感じることのなかった音の広がり方に、わたしは尻込みしそうになった。外で楽器を弾く機会なんてそうない。聞こえ方も全然ちがう。練習しておけばよかったと後悔しながら、でもこの時、わたしはたしかに高揚していた。
 
 ど、ど、と肋骨の内側で重く跳ねる心臓の拍動が、わたしの指先を震わせる。ピックをつまむ指に力を入れ直し、わたしは大きく息を吸って、吐き出した。
 どでかい深呼吸に、準備が終わったらしい彼女がこちらを振り返る。
 パチンと目があって、あ、とわたしは思った。
 
 その瞬間、不思議なことに、わたしには彼女だけしか見えなくなった。彼女の息遣いだけがわたしの耳朶を震わせることができたし、一挙手一投足をわたしの目がとらえていた。そんな確信めいた錯覚を抱かせるなにかが、わたしたちの間にピンと糸を張った。
 マイクを握る彼女の唇が、ほんの僅かにゆるむ。
 緊張なんてきっとこの子は知らない。尻込みどころか、わたしの感じている緊張すら無意識のうちに”楽しみ“へと変換して、いまかいまかと歌うのを待っているのだろう。
 
 いいなあ、と、わたしは思った。
 こんな純粋に、好きなことを好きなように楽しむ気持ちを無くさずいられる彼女が羨ましかった。しかし同時に、楽しそうな彼女がずっとこのまま楽しくいられる場所を守ってやりたいとも、わたしは思うのだ。
 
 わたしはピックを握りなおす。きゅり、と先が弦を擦った。
 彼女が顎を引いて、ほんのわずかに首を傾げる。
 わたしはふっと肩から力を抜き、目線だけを返した。
 凡人のわたしにできることなんてたかが知れている。せめて彼女の歌声を邪魔しないように努めるのみだ。
 
 
 彼女のうすい唇がひらく。
 すう、と無音の呼吸音が耳朶を震わせると同時、わたしの指が弦を弾いた。
 

 
 
 
 
 

 

懺悔
ギター弾いたことない人間のエアプ描写




8/12/2025, 4:55:50 PM




こぼれたアイスクリーム/真夏の記憶
甘くて溶けない貴方でいて



百合っぽくてオチもなく意味もない




 べちゃっ、と、ピンク色がコンクリートの地面にぶちまけられた。
 私と彼女のちょうどひと一人分あいた空間、お互いのつま先の中間点に広がったそれは、まるでペンキ缶をひっくり返したような惨劇で周囲に飛び散っている。イエローのマニキュアを塗った足の爪や、シルバーのサンダルに、パステルカラーの飛沫がかかっていて、私はぼう然とそれを数瞬見つめていた。なんだか派手だし子供っぽい色あいだなあとぼんやり思いながら、同じく固まる向かいの彼女をちらとうかがう。

 彼女は大きなピカピカの瞳で落ちたアイスを見つめていた。右手には飾りのないコーンだけを握りしめている。最近成人した女性とは思えないほど間抜けた表情であった。
「うふ」
 ぶちまけられたストロベリーアイスから噴き出した私に意識がうつったのか、彼女はジロリとこちらを睨め付けた。
「いや、ごめん。ふふ」
「なによう」
「ううん、なんでもないの。うふふ。違うのよ」
「違う?違うってなにが?間抜けな私より面白いものなんていまここにないと思いますけど?」
 フン!と彼女は鼻を鳴らす。そのツンとした態度がなおさらおかしくて、私は笑いそうになる口元を片手で抑えた。もう片手で持っている、欠けたバニラアイスがたらりとコーンを伝って手を汚す。

 私たちがついさっき寄ったパーラーは目測十メートルほどしか離れておらず、この夏の暑さをどうにか和らげようとアイスを買い求める少女達が引き寄せられている。出てきた子たちは美味しそうにアイスにかぶりついていて、ついさっきまで私たちもそうだったのを思い出す。つまり、踵の高いヒールを履いてきた彼女がちょっと躓いて、そのままポンとストロベリーアイスがコーンから転げ落ちるまでの短い時間のことである。
「買いなおしましょうよ」
 提案すると、彼女はそっぽを向いたまま「...」と口をへの字に曲げた。ヤダということらしい。意地っ張り、と、私はため息を吐く。故意に落とした訳でもないのだから、別に事情を伝えるでもしてもう一度同じものを買えばいいのに。それが恥ずかしいというのなら理解できなくもないが、店主だって“こんな事故”は慣れっこだろう。その人が「アイスを落としたの」と言う彼女に同情したような表情を浮かべるだろうことは容易に想像できる。
「アイスいらないの?」
「べつに。いいわ」
「でも暑いでしょ。ひと口しか食べてないし」
「気分じゃなくなった」
 嘘つけ、と私は思った。思ったが、口にしなかった。絶対に機嫌が悪くなるからだ。いまだってそうではあるけど、この状態はまだ13階段を1段登ったくらいのものである。ポーズに近い。
 私は「連れたって歩くのに私だけ食べてるの、なんか気まずいのよね...」と思いながら、持っているアイスを見つめる。雪のように真っ白いバニラアイスが太陽の熱でとろりと溶け、混じるバニラビーンズが甘く香った。でもそれ単体を舐めると、なかなか苦いことを知っている。すこし崩れたアイスは真珠みたいに表面がツルッとしていて、手の甲を一筋流れる白い細流はいささか不快だった。
「じゃあ、分かったわ、これあげる。半分」
 私はずいと片手を差し出す。空を睨んでいた彼女の瞳がついと手元へ滑り落ちた。
「私そこまで卑しくないわよ。欲しがってなんかないわ。コーンはあるもの。じゅうぶんよ」
「んふ、そうじゃなくて。ね、半分こしましょ。私全部食べられる気がしないのよ」
「この間三段重ねの分厚いパンケーキ食べてなかった?」
「あれほとんど空気だったじゃない」
「いやホイップとか果物めちゃくちゃ乗ってた...」とブツクサ言う彼女を無視して、私は「ねっ」と一歩近づく。
「あのね、もう溶けてきてるのよ。食べてるあいだに全部無くなりそうなの。それって勿体無いでしょう。だから“手伝って”ちょうだい」
 大体ほとんど本音で、ほんのすこしだけ嘘だった。彼女はム、としたまましばし動かずにいたが、ようやく「そこまで言うなら」とばかりに大きなため息を吐いた。面倒くさそうな顔をしているので、たぶんいろんなことがバカバカしくなったのかもしれない。
 しかしそれでも「仕方ないわね。食べてあげるわよ。感謝しなさいよね。ほらスプーン寄越しなさい」と私の“ほんのすこしの嘘”に付き合ってくれる。私がバニラアイスを好きなことを彼女は大昔から知っているし、このくらいの量をぺろっと食べ切れることも同様だ。
 私は「ありがとう」とニコニコ笑い、彼女にスプーンを渡すべくアイスに突き刺さったままのそれを引き抜く。
 その瞬間である。
 思ったより深く刺してしまっていたらしい。スプーンを抜いた拍子に、ころ、とアイスがコーンの縁を超えた。あっと思う間もなく、べちゃっ、とそれは地面に落ちた。
「...」
「...」
 私たちはしばらく、マーブルになったピンクと白の模様を見下ろしていた。こんなことがあるのか...と思ったし、こんなことがあってたまるか...とも思った。しかも私たちの手には空っぽのコーンだけが握りしめられていて、間抜けを体現したような姿である。なんというか、恥ずかしいというより、虚しい。蟻が一匹二匹と集まってくるのも、その気持ちに拍車をかける。
「ねえ」ふいに彼女がポツリとつぶやく。私は「うん」と続きを促した。
「コーンにアイスを乗っけるなんて、誰が考えたのかしら」
「...さあ?」
「蛮行よね」
 そこまで...?と思ったが、哀愁漂う彼女の言葉尻に、私は口をつぐむ。
「今度はカップにするわ」
 ものすごく真面目に宣言する彼女に、私はちょっと笑いそうになった。いや、同意はする。こんなに食べるのが下手くそな私達には、コーンでアイスを食べるなんてまだ早すぎたのだ。
「私の家で練習しましょ。アイスもコーンもぜーんぶ揃ってるの」
 言うと、彼女はニヤッと笑った。
「練習?」
「そう。お上品にアイスクリームを食べられるようになる練習」
「私、成功するかしら」
「私も不安よ。今みたいに落としてしまったら、怒り狂った母に何を言われるか...想像しただけで鳥肌が立ってしまうわ...」
 ぶ、と彼女が噴き出した。私も釣られて、堪えきれずに笑ってしまった。バカバカしい会話だ。でも「本当よ、ふっ、ふふ、いったいどれくらい練習したらいいのかしらね...」と続ける彼女に「成功するまでに決まってるじゃない...」と神妙な顔を作って返す私も大概である。

 彼女とは小さい頃から一緒にいた。産まれてからずっとだ。学生になってからも、関係性だとか話の内容だとかも全然これっぽっちも変わらないものだから、きっと一生くだらないことでくだらない会話ばかりするのだろう。そんな予感めいた確信があった。だから、まったく私たちって成長しないわね、あんたって本当にバカね、とお互いに呆れながら、それでも離れることができないままでいる。たぶんあっちもそうなんだろうと思う。でなければ、こんな面白くもない茶番劇を無駄に真面目くさった顔でやりはしない。
「何味あるの?」と、彼女が首を傾げる。私は何があったかなあと思いながら、冷凍庫の中身を思い出す。
「チョコとストロベリーとバニラ、あとクッキークリーム」
「バケツみたいな大きさのやつで?」
「バケツみたいな大きさのやつで」
「アイス富豪って呼んでもいい?」
「貴方が人前で呼んで恥ずかしくないならいいわよ」
「ねえアイス富豪、ディッシャーってあったわよね?」
「あるけど。呼ぶのね」
「トリプル乗せしてみない?」
「贅沢ね。したい!」
「どっちが綺麗に盛り付けられるか勝負ね」
「すぐ勝負したがるんだから...」





全て非現実女子同士のファンタジー100%会話と関係
こういう口調の女の子がすごく好きだけど自分が書くってなったら別だなと思った 上品にならないし知性がない 

✍️気をつけたい:思いつきで適当に設定付け足していかない。おもしろくないギャグに逃げない。👯‍♀️







 
 

7/26/2025, 2:22:38 PM

涙の跡/太陽の女神

あらゆることが適当な捏造のSF



 白と茶の地平線が広がっている。

 まだらに混ざり合う地表はラテアートのようにマーブルを描いている。晴天の空とのコントラストで、パッキリと天地の境がとおくに伸びてゆくのは壮観であった。しかし美しいのは景観だけで、すっと鼻で息をすると、香ばしいコーヒー豆の芳しい香りというよりも、生き物を捌いて内臓を放置した時のゴミ箱のような臭いがした。

 ふっと私は息を吐く。こんなにおいはどこに行ってもまとわりつくものだ。しかし場所によってほんの少し変わるので、今いる場所は初めて訪れた青海原の跡だと分かった。

 靴底がざり、と氷を噛み砕いたような音を鳴らす。蜃気楼に揺らめく地平線は、まるでかつてここが空を反射して波打つ大海だったことを思い起こさせるようだった。
 美しいと思う。憎たらしいほどに。しかしこの美しさに、私は───私たちは、生き残った人びとは、たくさん苦しめられてきた。肌を焦がす太陽の熱射、目をくらませる真白い光、尊崇と憎悪を一心に集める引力を持つ猛炎は、青い地に生きるすべての生物にはあまりに苛烈な、すべてを照らす恒星だった。
「あつい!」
 私は思わず叫んだ。
 すると今さっき私が渋々出た涼しい車の中で、彼女が「そりゃそうだ」と笑った。バカにしたように目を細めている。しかしそれがただ単純に可笑しいなあと思っているときの表情だと、私はすでに理解していた。
「外気温56度。UV指数8。そのまま突っ立ってたらお前生きたまま干物になるよん」
「ヤダッ」
「だったらさっさと試料と資源取ってこい」
 私は泣く泣くかつての海の跡地へ踏み入り、リュックからサンプルチューブと分厚いプラスチック製のパックをいくつか掘り出す。そのまま数メートルごとに塩と土を採取し、私は汗だくになりながらヒイヒイ車に駆け戻った。
 ばん、と思った以上にドアが閉まる音が車内に響く。薄暗い車内は外よりも幾分か涼しい風がエアコンから噴き出ており、私は息を整える余裕もなく、置いておいた水筒の生ぬるい水を一気に飲み干した。溢れた水が口の端からこぼれて、首をつたい汚れたタンクトップに染み込む。
 運転席でハンドルにもたれかかったまま、そんな私を眺めていた彼女は「あはは」と笑う。そうして私の口元に手を伸ばし、溢れた水を指で拭った。
「青い地球って、一体いつまでのことを指してたんだろうね」
「...さあ。でも今の感じからすると、とっても昔のことのように思いますけどね」
「そうだね。私、その頃に産まれたかったな。豊かで綺麗で、不安も絶望も、なんの苦しみもない昔の時代に産まれたかった」
 するりと彼女が私の頬を撫でた。冷たいようで熱い指先が肌をなぞり、私の二の腕にじんと鳥肌が立った。
「...きっと素敵ですね」
 私はカラカラの喉を震わせ言った。彼女はニコッと眩く笑い、「ね」と歯をみせる。
 昔の人のせいで、私たちはこんなにも生きづらい星に生まれてきてしまった。水も食料も何もかもを奪い合い、残された旧世代の遺産に縋りつく。私たちのように遠くへ出て物をさがす人をトレジャーハンターと呼ばう人びとがいるけど、どちらかといえばハイエナに近い気分でいる。生きるか死ぬかばかりの生存本能が己を突き動かし、そのためならどんな行為だって厭わない。
 どうしてこんな時代に産まれたんだろう。私はずっとそう思いながら生きてきた。どれだけこの世を恨んだかわからない。
 
 でも。
 私は目の前で夢を語る彼女を見つめる。
 陰る車内に、白む陽光がナイフのように差し込んでいる。それは滑らかな肌に濃く陰影を落とし、まるでいつか見た彫刻のようになにもかもが“完璧”だった。
「......いまも私、結構満足ですけどね」
 私の唇から、ぽろりと本音がこぼれ落ちる。
 すると彼女はきょとんと目を瞬かせた。こんな世界を望む者はそうそういないからだろう。
 「マジで?変わってるねえ」と彼女は眉を下げた。私の喉は一瞬痙攣し、眉根にキュッと力が入った。からりとした答えは悲しくなるほど私の気持ちを焼き尽くした。
「住めば都ってヤツですよ」
 言うと、彼女は「タフだねお前は!」とケラケラ笑った。「お前のそういうところ、大好き!」と。私も彼女に合わせて笑いながら、ワシワシと頭を撫でるあたたかな手に泣きそうになった。





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トライガンと塩の街とうすくduneが混ざってるかもみたいな意識がありながら書いた話。近未来SF。文明崩壊した地球が好きなので



 

7/25/2025, 11:11:34 AM





私は半袖が着れない。
昔からアトピー性皮膚炎に悩まされているせいである。
関節の皮膚がぼろぼろだから、夏でもシアーシャツの長袖や七分袖のインナーで見えないように誤魔化してきた。「成人したら治るよ」なんて医者は言ったが、ほんの少しマシになっただけで完治はしていない。腕の内側、太ももの裏、首、肩、皮膚が薄くよく伸縮するようなところが痒くなる。アトピー性皮膚炎の中でもまだ軽いほうだと言われたが、長く悩まされてきた私にとっては父の遺伝を恨むくらいには憎たらしい病だった。ひどいときは眠っていても無意識に肌をかいていて、それで目が覚めてしまうこともあった。
ステロイドや掻きすぎで皮膚が薄くなり、シワができてしまっている部分もある。小さい頃は家族から我慢しろと言われたが、殆どの親族はアトピーを持っていなかった。別に掻きたくて掻いているわけじゃない。本当にどうしようもないのだ。頭がおかしくなるほど強烈な痒みなんて、同じ疾患を持つ者にしかこの苦しみは分からないだろう。
治したいという気持ちはずっとある。まっさらな肌に憧れて、掻かないように我慢した日々はたくさんある。医者に行き薬をもらって治そうとしてきた。でも気を抜くと爪を立てて掻きむしっている。
関節部分以外はまったく傷はないが、痒い場所が場所なので短いパンツやインナーは着ることができない。今はだいぶ傷も無くなっているけど、あまりにも汚い肌を露出するのは抵抗があった。どれだけ我慢しても治りそうでも、気を抜くと汗や乾燥でかゆくなってしまう。どうして自分は我慢ができないのかと惨めな気持ちになるほどだ。
だから夏でも肌が隠れるような服をいつも着ている。タンクトップや袖の短いTシャツ、足の出るようなパンツ、そういった露出の高い服を着て堂々と歩く人とすれ違うたび、羨ましいなあと思う。はやく冬が来てくれたらいいなあ、とも。
夏は私にとってまさしく地獄である。

7/24/2025, 3:37:18 PM





過去に行けるなら両親の結婚を邪魔したい。
どうせ離婚するのは確定しているので、だったらお互い別の人と付き合って結婚して私以外の子供を育ててほしい。正直なんで結婚したんだよ...と思うことは多々あったし、私から見てもソリ合わな過ぎだろって呆れるような二人だったから、多分別の合う人とくっついたらそれぞれ幸せになれたんじゃない?きっと。
何年も毎晩喧嘩して怒鳴って暴言吐いて、やっと離婚となったら今度は調停で一年以上くって、この人たち大変だな〜って見てた。両親の喧嘩に口挟むと矛先がこっち向いたり面倒くさいことになるからbgmだと思うようにしてたけどマジでうるさかったな。引越した日の夜がすごく静かだったのいまだに覚えてる。ずっと悩まされてた耳の痛みとか耳鳴りも治った。いいことづくしだったし、きょうだいや親と会話してるとげらげら笑うことが増えて、気楽に生活できるようになったんだなって思う。
私は両親が仲良くしている記憶あんまりないし、下の子はマジで記憶ないんじゃないかな。けど子供には優しかったから時々小さい頃の記憶思い出して嫌いになりきれなかった。でも最後に話したとき私は親の顔をちゃんとしっかり見ていたのにあっちは全然目合わせてくれなかったし、年金とか保険とかそういう話しかしなかった気がする。まあ元気でねとか言うのもなんか違うなって思ってたからあっちもそうだったのかもしれない。ただ目を見て話せよおいとはなった。

スーパーとか行くと夫婦で買い物に来てる人がいて毎回すごいなって驚く。若い夫婦もだけど、よく見かけるのは歳をとった夫婦かもしれない。うちの両親が揃ってスーパー行くとか本当に見たこと無かったから、なんかみつけると毎度すっごい素敵だな〜って感動する。いいな〜って思うけど、自分は両親を見て育ったせいか結婚なんてしたくないし子どもも欲しくないから、憧れというより少女漫画とかラブストーリー観てるときの素敵✨いいな✨に近いかも。保育園児の頃の将来の夢はお嫁さんだったのにね...それは叶わないよって昔の私に教えてあげなきゃ...🏃‍♀️‍➡️
過去の両親にも「貴方たちの結婚生活は破綻するので別の人と付き合ったほうがもしかしたらワンチャンあるかもね」って教えてあげたいね。22世紀からタイムマシンがやってきて二人の過去に連れてってくれないかな〜。


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