あれはサメ
あれは肉球
あれはお餅
雲を見上げるときなんて
めちゃくちゃ暇な時か
めちゃくちゃ参ってる時
あれは手形
あれは入れ歯
あれは――――
さて自首してくるか
『入道雲』
あの頃は
シャボン玉が飛べば屋根も嬉しくて一緒に飛んじゃうんだと思ったし
なんなら自分も上手に傘を使えば飛べると思った
サンタは本当にいて
クリスマスまではメモ帳持ったサンタの手下に見張られてると思った
組んだ指の隙間から勝てるじゃんけんの型が見えると思ったし
テレビの向こうではこっちが見えてると思って緊張した
じいちゃんとばあちゃんは産まれたときから老人で
飼ってる犬がいつか死ぬとか考えたことなかった
でもね
これは今でも思ってる
死んだら幽霊になれるから
上に行く前に会いに来て
見えなくても
絶対に会いに来て
約束したからね
『子供の頃は』
人生の内の総待機時間は果たしてどのくらいなのだろう
交通機関を利用するときポツリと考えた
踏切や信号待ち
乗車待ち
待ち人と出会うまでの時間
続きが気になりながら流れてくるCM
それ以外にも、植物なり動物なり、何かしら『育てる』ということの大部分を占めるのは『待つ』ことだと思い至る。
植物であれば水や肥料を与えたあと成長を待つ
動物も食事や排泄の世話をしたあとは成長を待つ
こちらが手をかけあとはひたすら待つのみ
人間の育児では、特に気を長く持たなければやっていられない。
服のボタンをとめる、靴を履く、辿々しくも健気に頑張る姿を、手を出さずにひたすら見守るその時間は、永遠ではなくても中々忍耐がいる。
睡眠時間は一生の時間の三分の一というのは有名だ
では果たして大なり小なり費やした待ち時間は。
そしてその時間は有意義に過ごせているのだろうか
その有無は、結局のところ自分次第なのだろう
ぼんやり過ごすのか、イライラして過ごすのか。
又は、本を読んで知識を広げ、空の青さを堪能するのか。愛おしいつむじを見下ろし小さな手を応援するのか。
短気は損気
日常生活に必ず付いてくる待機時間は、成長過程に必要な貴重な時間なのだろう
『日常』
伊達くんは自分の傘を持っていない。
では普段使用している傘はといえば、レンタル傘なるものらしい。
自転車みたいに、駅やコンビニなど決められた場所に設置されているレンタル傘は、登録者のみ使用できるシステムだ。
ミニマリストの伊達くんは、物を増やさないためにこのようなサービスをいくつか利用していて、傘もその一つというわけだ。
ただ、残念ながら僕たちの通う大学には設置されていないので、今日のような突発的な雨には成すすべがない。
「よかったら駅まで一緒に入ってく?」
講義が終わって濡れて帰ろうとした伊達くんに、僕は声をかけ、共に駅へ向かう。
伊達くんの肩が濡れないように気をつける。
彼の家に薬があるか怪しいので、風邪を引かせないようにしないと。
そんなことを思いながら世間話をしつつ歩いていると、伊達くんが急に驚いた声をあげた。
どうやら傘の柄に付いている玩具のナメクジに驚いたらしい。
忘れていたけどそういえば盗難防止で付けたままだった。思わぬ所で悪戯が成功した気がして、僕はにんまりする。
珍しく伊達くんも興味津々で、僕はこのナメクジのエピソードをいくつか話した。
それにしても伊達くんが物に興味を示すなんて非常に稀なことだ。
「欲しかったらあげようか?」
きっと断られると思いながらもそう言うと、なんと伊達くん、嬉しそうに頷くではないか。
あの、伊達くんが、日頃から物が増えることを非常に恐れている伊達くんが。
まさか本当に欲しがるとは思わなかった。
唖然としたまま僕がナメクジを渡すと、伊達くんからは傘を買おうかな、なんて発言まで飛び出して余計に驚く。
そういえば僕は前に、伊達くんに何か贈り物をしたいと思っていたのだっけ。
それがまさかナメクジの玩具とは。
嬉しそうな伊達くんを横目に、伊達くんと一つの傘に入るのはこれっきりなのかな、なんて思いながら僕らは駅に向かった。
『相合傘』
キミに会いに行きたくて
今夜もほうき星を探しに来たよ
ほうきの端っこにぶら下がって
びゅーんって飛んで行くんだよ
すっごくすっごく速いから
きっと辿り着けるはず
でもでも
でもね
うっかり手が滑っちゃって
落っこちちゃったら
どうしよう
キミと真逆の場所に
飛んじゃったら
どうしよう
キミがボクを
忘れてちゃってたら
どうしよう
それでもそれでも
びゅーんって飛んで行くからね
カッコよく着地するとこ
きっと見せてあげるから
今夜こそ
ほうき星を見つけるよ
『落下』