ミミッキュ

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2/20/2024, 2:00:31 PM

"同情"

 同情はいらないし、されたくない。
 この感情は俺のもの。何かをするのに、俺と同じ感情を抱く必要は無い。
 せめて《同じ思いを持つ》だけじゃ無くて、《同じ思いを持った上で自分で考えて行動》して欲しい。
 俺に同情するより、目の前の事に集中して動いて欲しい。

2/19/2024, 11:07:50 AM

"枯葉"

 この頃暖かくなってきて、雪が日に日に少なくなっている。
 雪の中から枯葉が見えたりすると『春へ変わる為の準備に入ったな』と、喜びと寂しさが混ざった気持ちが湧いてくる。
 もう少し暖かくなったら、久しぶりにハナを歩かせるか。
 雪の中の枯葉とかゴミにじゃれそうで心配だけど。
 というか雪の中にダイブしそうで危なっかしい。
 溶けかけの雪は固くて危険な上に雪自体がそもそも汚いので、近付かないようにハーネスをしっかり握っていなくては。もし近付きそうになったら、抱き上げて距離をとってから地面に下ろそう。

2/18/2024, 12:08:18 PM

"今日にさよなら"

 俺はそれらしい理由を付けて、自分が傷付く方へ、あわよくば《ずっと眠らせてくれる》方へと、なりふり構わずに進んでいた。
 あの時から、いや、ずっと前から、そんな考え方をしていた。《あの出来事》がきっかけとなって、その考え方が表に出て、増幅された。
 自分の贖罪で、自ら進んで傷付きに行くようになったのだ。
 地面に倒れる前『あ、俺死ぬな』などと軽い感じで、死を認識した。
 自分から挑んだ勝負に敗れて死ねるなら本望だと目を閉じた。
 はずだったのに。
 意識の浮上を感じて、瞼を開いて最初に見えたのは、綺麗な白い天井と、天井に嵌め込まれた見覚えのある──見覚えどころか現役の時に何度も見てきた──長方形の照明。
 医者として当然の選択肢を取ったのは理解できた。だが、それでも俺を救う理由は無いはずだ。後から聞いたが、俺の手術に向かう直前、とんでもない選択を迫られていたという。結果、《俺を救う》方を選んだ。
 数日後、その理由と関係がありそうな言動があった。
 その言動で『俺の存在を認めてくれる人がいる』『俺の存在を肯定してくれる人がいる』『俺は此処に居ていいんだ』と思った。
 その瞬間、急に心と身体が軽くなった気がした。久しぶりに、たくさんの酸素を吸えた気がした。
 あの日の事は、今でもハッキリと思い出す。
 今思えばあれは、《自暴自棄だった俺》とさよならした瞬間だった。
 俺の行動は、それ以前と変わらないが、ただの自暴自棄では無くなった。
 礼を言うつもりも無い。というか言いたくない。
 調子に乗りそうだし、揶揄ってきそうだから言いたくない。一応そんな理由。
 本当の理由は、言葉にするのは少し違う気がするから。
 言葉にできなくても、その気持ちを行動で示して、少しでも伝えられたらいいな。 

2/17/2024, 11:55:00 AM

"お気に入り"

「ご馳走様でした」
 昼休憩中、昼食を済ませると椅子ごと振り返って、ベッドの上で──昼食後の毛繕いを終わらせて──身体を丸くしているハナに視線を向ける。俺の視線に気付いたのか、閉じていた目を開けて顔をこちらに向ける。
「ハナ」
「みゃあ」
 ハナの名前を呼ぶと、『待ってました』と言わんばかりに立ち上がって返事をした。
 机の一番下の引き出しを開け、中からハナのお気に入りの玩具を出して、見せびらかすように揺らす。
「運動の時間だぞ」
「んみゃあ」
 声を上げると、ベッドから降りてじゃれ始めた。それに合わせて、椅子に座ったまま猫じゃらしを右へ左へと動かす。
 ハナのお気に入りの玩具は、紐状の猫じゃらしだ。この猫じゃらしを鞭のように動かすと、今までのどの玩具よりも目を輝かせて食い付いてくる。
 俺としてもこの猫じゃらしなら椅子に座ったままでも手首のスナップで色々な動きが出来て楽だし、体力を最大限温存できるから、これを気に入ってくれて正直ありがたい。
「これはどうだ?」
 紐の中間辺りをもう片方の手で掴んで、その手を高く上げる。その反動で紐の先が手よりも高く舞い上がる。
 身体を縮めて尻を振りながら狙いを定め、ジャンプする。
 使い方を工夫すれば、脚力を鍛える動きをさせる事もできる。
 この猫じゃらし一つで、身体の動かし方を覚えさせる事ができるし、子猫特有の無尽蔵な体力を大幅に削る事ができる。
──ちょっと運動能力を上げて鍛えても損は無いだろ。別に『いつかハナと共闘したい』とか、そんなファンタジーな事思ってないし。
 頭を振って時計を見る。そろそろ昼休憩が終わる時間だ。
「ほれ、ラストだ」
 紐状猫じゃらしの柄を持つ手首を、これまでよりも大きく動かす。ハナも、これまで以上に身体を動かしてじゃれる。
 三十秒程やって動きを止め、猫じゃらしの紐を回収し丁寧に畳む。
「お終い。続きは夜」
「みぃ」
 返事をして身体の動きを止めると、腰を下ろして毛繕いし始める。少しして毛繕いを終えて立ち上がるが、尻尾は興奮でブンブンと大きく早く揺れている。
「水飲め」
 ご飯皿の横に置いていた、水で満たされた皿をハナの前に持っていく。ぴちゃぴちゃ、と音を立てながら飲み始めると、みるみるうちに尻尾の動きが落ち着いていった。それを確認すると、椅子から立ち上がって扉に近付いて振り向く。
「んじゃ、そろそろ行くな。大人しくしてろよ」
 ハナに声をかけて扉を開ける。隙間に身体を滑り込ませて廊下に出ると「みゃあ〜ん」と鳴いた。恐らく『行ってらっしゃい』だろう。その声に「行ってきます」と返して扉を優しく閉める。
「んーっ」
 診察室のデスク前で伸びをする。
──さてと、午後も頑張るか。

2/16/2024, 1:19:25 PM

"誰よりも"

 俺が『誰よりも優れている』と言えるもの、思ってるものは何も無い。
 現役の時は『天才』なんて言われていたけれど、ただ気になるものはすぐ調べる性(さが)で、ちょっとでも引っ掛かる事があったら理由や原因が分かるまで調べなきゃ気が済まない、面倒臭い性格だっただけ。
 強いて《これが一番》と言えるものは、ハナに懐かれてる事。
 俺は特別動物に好かれる体質ではない。恐らく人間を初めて見た子猫だったからだろう。会った時から甘えてきたり、グイグイと構ってアピールしてきたりと凄かった。
 あの頃と比べて、今はだいぶ落ち着いた。その代わりと言ってもいいタイミングで食欲がみるみる凄まじくなって、食いしん坊モンスターと化した。
 定期的に運動しているからだと思いたい。思いたいが、それにしたって食べるスピードと量が『元々食いしん坊だったのが定期的な運動と相まってそうなった』としか思えない。
 落ち着いたと言っても、完全に無くなった訳では無い。時々太腿をフミフミしてきたり、撫でている手を甘噛みしてきたりと、アピールの仕方は変わらない。
 今のところ、俺以外にも同じアピールをしている所を見た事が無い。
 ハナは別に人見知りする性格ではない。実際初対面の人間相手にも積極的に近付いていくタイプだ。
 それなのに、俺の前でだけ甘えたになる。
 ハナのこれまでの行動を細かく思い出すと、これは自負して良いのかもしれない。

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