ミミッキュ

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2/15/2024, 11:13:47 AM

"十年後の私から届いた手紙"

 もし未来の自分から手紙が届いたら。
 最初は宛名が書かれてないか見る。未来の俺からなら、ちゃんと宛名は書く。住所は何らかの影響が起きそうだから、《書けない》だろう。
 けれど、誰かの悪戯か何かと思って警戒して、光に透かして何が入っているのか見る。こういうのって剃刀の刃や縫い針が入れられている可能性があるから、何が入っているのか入念に見てから開ける。……まぁ、俺なんかにそんな悪戯する物好きはいないと思うけど。
 開けて中の便箋を出したら、さらっと全体を見て、文体を確認。未来の俺からなら、俺の文体とあまり変わらないはず。
 そしてようやく本文を読む。……文体が違っても気になる物は気になるから読むけど。
 本当に届いたら凄い。けどそんな超次元的な事、起きるわけが無い。そういうのはSFの世界の話で、現実的に見たら有り得ない。
 けど、未来の自分から手紙が本当に届いたら、なんて書いてあるのだろう。未来の俺は、何を伝えるのだろう。凄く気になる。考えるだけで、年甲斐もなくワクワクする。

2/14/2024, 2:25:37 PM

"バレンタイン"

「よう、お疲れ」
 今朝、夕方にいつもの休憩スペースに来るよう、メッセージを送って数分後に【分かった】と返信が来たので、約束通りの時間に休憩スペースに来たら、飛彩の姿が無かったので座って待っていた。
 五分程経って飛彩が来たので、片手を挙げて労いの言葉をかける。
「待たせて済まない」
 そう言いながら近付いて、椅子を引いて座ると率直に聞いてきた。
「急にどうしたんだ?」
 連絡したその日に呼び出されれば、気になって当然だ。
 テーブルの下の、もう片方の手の中の物がその答えになる物だ。
 百均に売っている、安っぽい小箱。
 中には、ココア生地のチョコチップクッキーが入っている。
 本当は市販の物を買って渡そうと思っていたが、それは目の前の甘党には、市販の物を渡すなど高難易度すぎるので即却下となった。
 そうなると手作りのチョコレート菓子になるが、チョコレートケーキやチョコレートマフィンなどは手間と時間が大幅にかかる。作っている時間が無さすぎる。
 消去法で結局、いつも作っているクッキーにアレンジを加えるだけとなった。
 生地に溶かしたチョコレートを混ぜようと思ったが、それは牛乳やバターの分量を細かく逆算する必要があり、そこまでしている時間も無かったので、ココアパウダーにチョコチップを混ぜ込む事に決めた。
 だが問題は一つ。ちゃんといつも通りの温度と時間で焼いたはずだが、黒っぽい見た目の為焦げているかどうか確認しづらかった。
 箱に入れる時に軽く見たが、本当に焦げていないか自信が無い。
「どうした」
 黙りこくる俺に痺れを切らしたのか、言葉を促すように言葉を投げかけてくる。
 意を決して、箱をテーブルの上に出す。
「……これっ」
 やる、と小声で続ける。箱を手に取って「これは?」と箱に向けていた視線を上げて聞いてきた。
「今日……何の日か知ってんだろ」
 バレンタインだ、と言うのがとてつもなく恥ずかしくて、遠回しな言い方になる。
 だが目の前の本人は「今日?」と呟いた。
──まさか……。
「今日は何日だ?」
 と聞いてきた。
「はぁ……」
──やっぱり……。
 数週間前、今後の予定の為いつものように分かる範囲内のスケジュールを教えてもらった時に、その可能性を考えていた。
「お前……徹夜したりしてねぇよな?」
「していない。必要な睡眠時間の確保をした上でのスケジュールだ」
「ならちゃんと毎日カレンダーを見ろ」
 仕方ない、とスマホを取り出してカレンダーアプリを開き、今日の日付けとその下に【バレンタインデー】と書かれた画面を突き出す。
 数秒後「あぁ」と声を漏らして顔を上げた。
「中身はチョコレート菓子か」
 予想を呟き、「開けていいか?」と聞いてきた。どうぞ、と箱を開けるよう促すと、丁寧に箱の蓋を開けて中を覗き込んで、中から一枚取り出す。
「チョコチップを混ぜ込んだクッキーか。生地はココアか?」
「正解」
 一口齧って咀嚼する。数十秒後喉仏が下がって、嚥下した事を確認すると、緊張で心臓の拍動が速くなる。
「……美味い」
 その言葉を聞いて、胸を撫で下ろす。
「そりゃあ良かった」
 だがそれを表に出さぬよう、平静を装って言葉を発する。
 飛彩は静かに一枚を平らげる。気に入ったのか、その顔は僅かに綻んでいた。
 平らげると自前のハンカチで手を拭って箱の蓋を閉じた。
「残りは家で大事に食べる。お返しは必ずする」
「いらねぇよ。後で感想くれるだけで良い」
 そう言うと「分かった」と答えた。
──これ絶対分かってないやつだ。
 小さく呆れのため息を吐く。
「時間大丈夫か?」
 そう聞くと、腕時計の文字盤を確認して「そろそろ行かなくては」と小さく呟いて顔を上げる。
「早く行ってこい。俺ももう少ししたら帰る」
「そうか」
 そう言って立ち上がり、踵を返して廊下に出ると、こちらを向いて「また」と告げる。俺も「おう、またな」と返す。
 俺の言葉を聞くと、柔らかく微笑んで壁の向こうに消えた。
 その背中を見送ると、テーブルの下で握り拳を作った。

2/13/2024, 10:55:49 AM

"待ってて"

 俺が絶対に会わせる。
 また二人が笑い合えるように。
 俺が取り戻す。
 《本来の日常》を。
 だから
 ───待ってろ。

2/12/2024, 11:40:14 AM

"伝えたい"

 『平和な日常を送ってほしい』
──それが《本来の日常》だから。その日常を手放さないでほしい。俺にはそんな資格は無いから。
 『戦うのは俺だけで十分』
──俺には、俺自身を縛る枷は無いから。俺は自由に戦える。思う存分戦える。俺にはこれ以上、失うものは無いから。
 この身がどうなろうと関係ない。
 これは、俺にしかできない事。
 《適材適所》。理由はそれだけ。

2/11/2024, 11:50:03 AM

"この場所で"

 早朝、ハナを連れて、久しぶりにあの時計塔へと向かった。
 散歩コースとしても人気のこの公園は、薄らと積もった雪に足跡が幾つもついている。早朝だが、この公園を散歩する人がちらほらいた。
 まだ足跡がついていない所を歩き、時計塔の前に立つ。
──久しぶり。
 周りの景色が変われば雰囲気がガラリと変わる。真っ白な空間の中にそびえ立つ時計塔は厳かな雰囲気でそびえ立っていて、自然と身体が真っ直ぐになる。
──ゴーン、ゴーン、……
 時計塔の鐘が鳴り始めた。文字盤を見ると、時計の針が七時を指している。
「みゃおーん、みゃおーん、……」
 ハナが時計塔の鐘に合わせて、大きな声で鳴き出した。ここまでの大声は初めて聞いた。
「張り合うな」
 頭を軽く小突いて鎮めようとするが、全く止める気配がない。
──これは鳴り止むまで止めねぇやつだ……。周りの視線が痛い。早く鳴り止め……それかハナが鳴き疲れろ。
「止めろぉ……静まれぇ……」
 そんな事をしていると、ようやく鐘の音が止んだ。ハナも鳴くのを止めて、スン、といつもの顔に戻る。
──ほんの十秒くらいなのに、凄く長く感じた……。
「みゃあ!」
「うおぉっ!?」
 するとハナが急に威勢のいい声を出して、驚きのあまり変な声が出る。
 こちらを見上げるハナの目が、キラキラしているように見える。
「気に入ったのか?」
 聞くと、「みゃあん」と鳴いて答えた。お気に召してくれたようだ。
「じゃあまた今度ここに来るか」
「みゃん」
 ハナの頭を撫でて時計塔を見上げる。
──またハナを連れて来るからな。
 そう心の中で呟くと、踵を返して公園の出入り口に向かい、帰路に着いた。

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