ミミッキュ

Open App

"この場所で"

 早朝、ハナを連れて、久しぶりにあの時計塔へと向かった。
 散歩コースとしても人気のこの公園は、薄らと積もった雪に足跡が幾つもついている。早朝だが、この公園を散歩する人がちらほらいた。
 まだ足跡がついていない所を歩き、時計塔の前に立つ。
──久しぶり。
 周りの景色が変われば雰囲気がガラリと変わる。真っ白な空間の中にそびえ立つ時計塔は厳かな雰囲気でそびえ立っていて、自然と身体が真っ直ぐになる。
──ゴーン、ゴーン、……
 時計塔の鐘が鳴り始めた。文字盤を見ると、時計の針が七時を指している。
「みゃおーん、みゃおーん、……」
 ハナが時計塔の鐘に合わせて、大きな声で鳴き出した。ここまでの大声は初めて聞いた。
「張り合うな」
 頭を軽く小突いて鎮めようとするが、全く止める気配がない。
──これは鳴り止むまで止めねぇやつだ……。周りの視線が痛い。早く鳴り止め……それかハナが鳴き疲れろ。
「止めろぉ……静まれぇ……」
 そんな事をしていると、ようやく鐘の音が止んだ。ハナも鳴くのを止めて、スン、といつもの顔に戻る。
──ほんの十秒くらいなのに、凄く長く感じた……。
「みゃあ!」
「うおぉっ!?」
 するとハナが急に威勢のいい声を出して、驚きのあまり変な声が出る。
 こちらを見上げるハナの目が、キラキラしているように見える。
「気に入ったのか?」
 聞くと、「みゃあん」と鳴いて答えた。お気に召してくれたようだ。
「じゃあまた今度ここに来るか」
「みゃん」
 ハナの頭を撫でて時計塔を見上げる。
──またハナを連れて来るからな。
 そう心の中で呟くと、踵を返して公園の出入り口に向かい、帰路に着いた。

2/11/2024, 11:50:03 AM