ミミッキュ

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"今日にさよなら"

 俺はそれらしい理由を付けて、自分が傷付く方へ、あわよくば《ずっと眠らせてくれる》方へと、なりふり構わずに進んでいた。
 あの時から、いや、ずっと前から、そんな考え方をしていた。《あの出来事》がきっかけとなって、その考え方が表に出て、増幅された。
 自分の贖罪で、自ら進んで傷付きに行くようになったのだ。
 地面に倒れる前『あ、俺死ぬな』などと軽い感じで、死を認識した。
 自分から挑んだ勝負に敗れて死ねるなら本望だと目を閉じた。
 はずだったのに。
 意識の浮上を感じて、瞼を開いて最初に見えたのは、綺麗な白い天井と、天井に嵌め込まれた見覚えのある──見覚えどころか現役の時に何度も見てきた──長方形の照明。
 医者として当然の選択肢を取ったのは理解できた。だが、それでも俺を救う理由は無いはずだ。後から聞いたが、俺の手術に向かう直前、とんでもない選択を迫られていたという。結果、《俺を救う》方を選んだ。
 数日後、その理由と関係がありそうな言動があった。
 その言動で『俺の存在を認めてくれる人がいる』『俺の存在を肯定してくれる人がいる』『俺は此処に居ていいんだ』と思った。
 その瞬間、急に心と身体が軽くなった気がした。久しぶりに、たくさんの酸素を吸えた気がした。
 あの日の事は、今でもハッキリと思い出す。
 今思えばあれは、《自暴自棄だった俺》とさよならした瞬間だった。
 俺の行動は、それ以前と変わらないが、ただの自暴自棄では無くなった。
 礼を言うつもりも無い。というか言いたくない。
 調子に乗りそうだし、揶揄ってきそうだから言いたくない。一応そんな理由。
 本当の理由は、言葉にするのは少し違う気がするから。
 言葉にできなくても、その気持ちを行動で示して、少しでも伝えられたらいいな。 

2/18/2024, 12:08:18 PM